スルピリドの副作用とは?精神科医が効果と注意点を解説
はじめに
スルピリド(商品名:ドグマチール)は、うつ病や神経症、さらには胃潰瘍などの治療に用いられるお薬で、以前から使用されている抗精神病薬の1つです。現在でも多くの医療機関で処方されており、その有効性が広く認められています。
一方で、「副作用が強いのでは」「太りやすいと聞いた」「ホルモンに影響が出るのではないか」といった不安の声が寄せられることも少なくありません。
本記事では、精神科の専門的な視点から、スルピリドの副作用や服用時の注意点について、科学的な根拠に基づいて分かりやすくご説明いたします。
医師の指導のもとで正しく服用すれば、安全性の高いお薬でもありますので、正しい知識を身につけ、不安を和らげる一助となれば幸いです。
スルピリドとは?
スルピリドは、「ドパミンD2受容体遮断薬」に分類される抗精神病薬の1つで、脳内の神経伝達物質ドパミンの働きを適度に抑えることで、精神的・身体的なバランスを整える作用を持っています。
このお薬は少し珍しい特徴を持っており、精神症状だけでなく、消化器疾患(胃潰瘍や胃炎など)にも適応があるという点で注目されています。
精神科の治療では、主に以下のような目的で用いられることが多いお薬です。
- 抑うつ状態における意欲の低下や無気力感の改善
- 気分の波を穏やかに保つための気分安定作用
さらに、スルピリドは他の抗うつ薬と比較して、作用がマイルドでありながら、効果の発現が比較的早いという点も大きな特長とされています。神経症や軽度のうつ状態にも使われることがあり、幅広い症状への対応が可能な薬剤です。
主な副作用
スルピリドは、抗精神病薬の中では比較的副作用が少ないとされていますが、体質や服用量、期間によっては、いくつかの副作用が現れることがあります。全ての方に生じるわけではありませんが、あらかじめ知っておくことで、安心して治療に取り組めます。
高プロラクチン血症
スルピリドは脳下垂体に働きかけ、プロラクチンというホルモンの分泌を高める作用があります。プロラクチンは本来、授乳時に乳汁の分泌を促すホルモンですが、過剰になると以下のような症状が見られることがあります。
- 月経が止まる(無月経)
- 授乳していないのに乳汁が分泌される
- 性欲の低下
- 男性の場合、勃起障害や精子の減少
こうした症状は、特に高用量を長期にわたって服用した場合に生じやすいため、定期的な診察と血液検査によるモニタリングが重要です。
体重増加
スルピリドには食欲を刺激する作用があるため、体重が増えやすくなることがあります。特に、うつ状態などで食欲が低下していた方が回復に伴って食欲が戻ったタイミングでは、短期間で体重が急増するケースもあります。バランスの取れた食事と適度な運動を意識することが大切です。
錐体外路症状
抗精神病薬によく見られる副作用の1つとして、錐体外路症状と呼ばれる運動機能の異常が現れることがあります。スルピリドでも稀に以下のような症状が出ることがあります。
- 手が震えや筋肉のこわばり
- 動作が滑らかでなくなる
- 足がそわそわして止まらないような不快感(アカシジア)
このような症状が現れた場合には、速やかに医師へ相談し、お薬の調整など適切な対応を受けることが大切です。
眠気・倦怠感
服用初期に強い眠気や全身のだるさを感じる方もいらっしゃいます。多くの場合、継続するうちに体がお薬に慣れて症状は軽減していきますが、日中の活動に支障をきたすような場合には、服用のタイミングや用量を見直すことで改善が期待できます。
消化器症状
吐き気・便秘・下痢といった消化器症状が現れることが稀にあります。通常は一時的なものですが、症状が長引く場合は医師の診察を受けるようにしましょう。
服用時の注意点
スルピリドを安全に使用し、効果的な治療を進めるためには、以下の点に注意が必要です。
- 処方通りに服用すること
自己判断でお薬の量を増減したり、中断したりせず、必ず医師の指示に従って服用してください。
- 副作用の兆候は早めに相談を
乳汁分泌や無月経など、ホルモンのバランスに変化を感じた場合は、早めに医師へ報告することが大切です。
- 他のお薬との併用に注意する
睡眠薬や抗うつ薬、胃薬など、他のお薬との飲み合わせで相互作用が起こる可能性があります。現在服用中のお薬がある場合は、忘れずに医師へ伝えましょう。
- 妊娠中・授乳中の使用について
妊娠や授乳中にスルピリドを使用する際は、慎重な判断が求められます。自己判断せず、必ず主治医とご相談ください。
医師からのアドバイス
スルピリドは長年にわたって医療現場で使用されてきたお薬であり、多くの臨床データにより、その有効性と安全性が確認されています。
ただし、副作用の可能性を知らずに服用を始めると、少しの変化にも過度に不安を感じてしまうことがあります。
副作用が報告されているからといって、必要以上に心配する必要はありません。大切なのは、お薬について正しく理解し、医師と連携しながら治療を進めていくことです。
もし不安を感じたり、気になる症状があったりする場合は、1人で抱え込まず、早めに医師へご相談ください。体調や状況に応じて、お薬の量や種類を調整することも可能です。
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参考文献:
日本ジェネリック製薬協会「スルピリド添付文書」https://www.jga.gr.jp/medicines/sulpiride.html
厚生労働省 e-ヘルスネット「抗精神病薬の副作用」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
医中誌Web「スルピリドと高プロラクチン血症に関する臨床報告」
MSDマニュアル「抗精神病薬の副作用
https://www.msdmanuals.com/
日本うつ病学会「気分障害の診療ガイドライン」
監修者:
新宿ペリカンこころクリニック
院長 佐々木 裕人
資格等:精神保健指定医、精神科指導医・専門医
所属学会:日本精神神経学会