グリシンに副作用はある?アルツハイマーとの関係を精神科医が解説
はじめに
グリシンは、リラックス効果や睡眠の質向上が期待されるアミノ酸の1つです。市販のサプリメントとして利用されることが多く、「眠りやすくなる」「集中力が増す」といった効果を期待して利用する方が増えています。
近年、一部では「グリシンの摂取によりアルツハイマーが誘発される」という懸念も上がっていますが、現在のところこの説を証明する科学的根拠はありません。むしろ、グリシンには神経保護作用や抗酸化作用があるとされ、これが神経変性疾患の進行を遅らせる可能性が示唆されています。
本ページでは、精神科医の視点から、グリシンの働きや副作用、アルツハイマー病との関連について、最新の研究成果をもとに丁寧に解説します。
グリシンとは?
グリシンは体内で自然に合成されるアミノ酸の一種で、特に中枢神経において重要な役割を果たす抑制性の神経伝達物質として知られています。
就寝前に摂取することで、体の深部体温を下げ、自然な眠りをサポートする効果があるとされ、睡眠の質向上を目的としたサプリメントとして広く利用されています。
また、グリシンは細胞内での抗酸化作用やコラーゲンの生成にも関わり、美容や健康維持のためにも注目されています。
グリシンに副作用はある?
グリシンは食品にも含まれている成分で、適切な用量を守って使用すれば、重大な副作用はほとんど発生しません。医療現場においても、静脈注射などで使用されることがあり、その安全性は高いとされています。
しかし、以下のようなケースでは注意してください。
- 大量に摂取すると、胃腸に不快感を与える可能性がある
- 過敏体質の方は、軽度の頭痛や眠気が現れることがある
- 他のお薬との併用により、特に中枢神経抑制剤との相互作用が考えられる
また、体質により反応に個人差があるため、初めて使うときには少量から摂取することをお勧めします。
グリシンとアルツハイマーの関係性は?
「グリシンを摂取するとアルツハイマー病を引き起こすのではないか?」という懸念があるものの、現段階ではそのような因果関係を示す科学的根拠は存在しません。
むしろ、グリシンには神経保護作用や抗酸化作用があり、これが神経変性疾患の進行を遅らせる可能性が示唆されています。
アルツハイマー病の発症には、アミロイドβの蓄積、酸化ストレス、慢性炎症など、複数の要因が関係していることが分かっています。グリシン単体が疾患の原因になるという説には十分な科学的根拠がなく、インターネット上での誤った情報が不安を引き起こしているケースもあります。
一方、動物実験の結果として、グリシン濃度の異常がアルツハイマー病モデルに影響を与えた可能性が報告されており、今後の研究結果に注目が集まっています。
医師としての見解と適切な摂取方法
最近では、睡眠をサポートする目的でグリシンのサプリメントを日常的に摂取する方が増えていますが、過剰な摂取や過信は避けるべきです。グリシンはあくまで補助的な役割を果たすものであり、生活習慣の改善やストレス管理と併せて使用することが大切です。
精神科医としてお伝えしたいのは、1日3g程度の一般的な用量であれば安全に使用できるということです。ただし、グリシンはサプリメントに過ぎないため、過度に依存せず、あくまで補助的に使うことが求められます。
摂取方法については以下の点を心がけてください。
- 適切な用量を守ること
- 眠る30分〜1時間前に摂取するのが理想
- 継続的に摂取するより、必要に応じて使用するのも1つの方法
睡眠や認知機能に関して不安を覚える方は、一度専門医に相談し、しっかりとした診断と治療を受けた後、グリシンを補助的に取り入れることが大切です。
まとめ:過度な不安を持たず、正しく活用を
グリシンは、安全性が高く、睡眠サポートなどに役立つ成分です。現時点では「グリシンがアルツハイマーを引き起こす」という科学的根拠は確認されておらず、誤った情報に惑わされないことが大切です。
適切な用量での使用に問題はなく、むしろ健康の維持に寄与する可能性もあります。気になる症状がある場合は、自己判断ではなく、医師に相談することをお勧めします。
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参考文献:
Bannai M, et al. (2012). The effects of glycine on subjective daytime performance in partially sleep-restricted healthy volunteers. Frontiers in Neurology.
Yamadera W, et al. (2007). Glycine ingestion improves subjective sleep quality in human volunteers, correlating with polysomnographic changes. Sleep and Biological Rhythms.
日本睡眠学会公式サイト
https://www.jssr.jp/
中国の神経科学研究におけるグリシンの中枢作用に関するレビュー(PubMed)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32184506/
WHO. Glycine Safety Evaluation
https://www.who.int/foodsafety/chem/summary71_rev1.pdf
監修者:
新宿ペリカンこころクリニック
院長 佐々木 裕人
資格等:精神保健指定医、精神科指導医・専門医
所属学会:日本精神神経学会