はじめに
「エビリファイを飲み始めてから顔つきが変わった気がする」──そのような声を患者さんからいただくことがあります。精神科の薬は、気分や思考を安定させる重要な役割を果たしますが、同時に見た目の変化に不安を抱かれる方も少なくありません。
ただし、顔つきの変化を感じる原因は必ずしも薬そのものにあるわけではなく、精神状態の変化や生活習慣、むくみなどの身体的要因が複合的に影響していると考えられています。
また、エビリファイは他の抗精神病薬と比較して副作用が少ないとされており、医師の指導のもとで正しく服用すれば、安全に治療を継続できる薬剤です。
この記事では、精神科医の視点から、エビリファイ服用によって顔つきが変化したように感じられる理由とその対処法について、わかりやすく解説します。薬の服用を継続するうえで大切な「安心して納得のいく治療」の一助となれば幸いです。
エビリファイとは?基本的な作用と特徴
エビリファイ(一般名:アリピプラゾール)は、統合失調症、うつ病、双極性障害、自閉スペクトラム症などに用いられる非定型抗精神病薬の一つです。脳内のドーパミンやセロトニンに作用することで、気分や思考のバランスを整える働きがあります。
主な適応症
- 統合失調症(成人・小児)
- 双極性障害における躁症状
- うつ病の補助療法(抗うつ薬との併用)
- 自閉スペクトラム症に伴う易刺激性 など
作用機序と特徴的なポイント
エビリファイの最大の特徴は、ドーパミンD2受容体に対して部分作動薬として働く点です。過剰なドーパミンを抑えつつ、不足している部位では刺激する作用があるため、「安定化作用」とも呼ばれています。これにより、従来の抗精神病薬よりも副作用が比較的少ないとされています。
「顔つきが変わる」と感じる理由とは?
エビリファイを服用している患者さんの中には、「顔つきが変わった気がする」と感じる方がいます。これは、いくつかの要因が複合的に関係していると考えられます。
実際の副作用として顔の変化はあるのか?
エビリファイ自体に「顔のかたちが変わる」ような副作用の記載はありませんが、以下のような身体的な変化が関係する可能性があります。
- 筋緊張の異常(表情筋のこわばりや不随意運動)
- むくみによる顔の腫れ
- 睡眠不足や体調変化による目元・輪郭の印象の変化
精神状態の改善による表情の変化
エビリファイを服用することで不安や緊張が軽減され、表情が柔らかくなる・明るくなるという変化もあります。その結果、「顔つきが変わった」と感じられることも多く、これはポジティブな変化といえるでしょう。
本人や周囲の“見え方”の心理的要因
薬の効果や副作用に対する不安が強いと、自分自身や他者の表情を過敏に受け取ってしまうことがあります。また、長年の苦しさから解放された自分を客観的に見て「別人のようだ」と感じることもあります。
エビリファイの副作用で注意すべき身体的変化
筋緊張・不随意運動(アカシジアなど)
一部の方に起こる副作用として、足のムズムズ感(アカシジア)や手足・顔の軽い動き(ジスキネジア)が見られることがあります。表情筋が影響を受けると、顔つきがこわばって見える可能性があります。
ホルモンバランスや浮腫の影響
エビリファイはプロラクチン値の上昇が少ない薬ですが、他の薬と併用している場合や体質によっては浮腫(むくみ)が起こることもあります。これが一時的に顔の輪郭や目元に影響を与える場合があります。
長期服用による体型・筋肉への影響
長期服用によって活動量が減ったり、体重の増減があったりすると、顔の脂肪のつき方が変わり、印象が変わることがあります。薬だけが原因ではなく、生活習慣や体調全体の変化も関与しています。
顔つきの変化が気になるときの対処法
医師に相談するタイミングとポイント
「顔のこわばり」や「表情の変化」に気づいたら、まずは主治医に相談することが第一です。薬の量や種類、服用タイミングの調整で改善することがあります。
写真や記録を使った変化の確認方法
自分では変化に気づきにくいこともあります。以前の写真と比較することで、客観的に判断しやすくなります。記録をつけて医師に見せるのも有効です。
服用を中止する前にすべきこと
独断で服薬を中止することは避けてください。急な断薬は症状の再発や離脱症状を招く恐れがあります。医師と相談しながら減薬や薬の切り替えを検討することが大切です。
まとめ:不安を一人で抱えず、まずは相談を
エビリファイによって「顔つきが変わった」と感じる背景には、表情筋への影響、浮腫、体型の変化、そして精神状態の改善など、さまざまな要因が関係しています。
薬が直接的に「顔つきを変える」わけではありませんが、気になる場合は主治医に相談することで適切な対処が可能です。自己判断で中止せず、安心できる治療を継続することが大切です。
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参考文献:
エビリファイ錠 インタビューフォーム(大塚製薬) https://www.otsuka.co.jp/medical/product/psych/abilify/
MSDマニュアル家庭版「抗精神病薬」 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/brain-and-nervous-system-disorders/mental-health-disorders/%E6%8A%97%E7%B2%BE%E7%A5%9E%E7%97%85%E8%96%AC
厚生労働省「医薬品副作用データベース」 https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/drugs/adr-info/suspected-adr/0001.html
日本精神神経学会「抗精神病薬の副作用と対策」 https://www.jspn.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=36
KEGG DRUG Database – Aripiprazole https://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?drug+D02736
監修者:
新宿ペリカンこころクリニック
院長 佐々木 裕人
資格等:精神保健指定医、精神科指導医・専門医
所属学会:日本精神神経学会