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うつ病・躁うつ病(双極性障害)とは何ですか?

私たちに身近な精神障害の一つに、かつて「気分障害」と呼ばれた病気があります。「躁(そう)」と「うつ」という両極端の気分状態の出現を主な特徴とする病気です。躁とうつの両方が存在する双極性障害(躁うつ病)」と、うつのみのうつ病の二つに大きく分けられます。両者には気分の障害であること、うつが出現することという共通点はありますが、基本的には別の病気です。

 

うつ病や双極性障害(近年では「双極症」の名称が使われることも)は、古代からその存在が知られています。紀元前9世紀古代ギリシアのホメロスや、紀元前4世紀のヒポクラテスがこの病気について書いています。また、旧約聖書の中にもこれらの患者様の存在が記載されているのです。

 

うつ病、双極性障害は、気分・感情の異常として理解されています。気分・感情は、人間の重要な精神活動の一つで「快と不快の方向付けを行う」、「自律神経の状態を心理的に反映する」、「人間関係をいろどって人間同士を結びつける」等のきわめて広い機能を含んでいます。気分・感情には様々な様態がありますが、ここではその異常を一過性のものではなく、長く続く異常に限定して、躁とうつとに大別して解説していきます。

躁とうつの違い

躁・うつ状態では、特定の病的な気分状態が持続します。まず、うつ状態では、気分が落ち込み、非哀感などの抑うつ気分が支配的です。さらに意欲や関心の低下、自己評価の低下や自信喪失、行動や思考の停滞などが見られます。そして気分の落ち込みから派生する罪責感と無価値観、絶望感、自殺念慮や将来に対する希望のない悲観的な見方が強まります。また、不安感やイライラなどの焦燥感も、しばしば伴います。

 

他方で、躁状態では、爽快感、多好感、高揚感、健康で好調だという感覚などの躁的気分が高まります。さらにどうしても何かをしなければならないと感じる行為心迫、注意が1点に集中できずにあちこちに移ってしまうこと、自己評価の上昇、考えが次々にわき上がって止まらなくなること等のの躁的症状が出現します。この状態では、浪費や一方的な言動などによって、周囲との摩擦が生じやすくなります。また、爽快気分とは対照的に、些細なことに強く反応して怒りっぽくなる気分状態を呈することがあります。

 

このような状態では、躁的気分を背景として、活動量の増大と活動速度の増加が見られます。また、気力と活動性の亢進、社交性の増大、多弁、過度の慣れ慣れしさ、性的活動の亢進、睡眠欲求の減退なども認められます。さらに躁状態が強まると、興奮状態を呈することがあります。

若い世代で発症しやすい疾病である

日本におけるうつ病の生涯罹患率は3~7%です。一般的な傾向として、女性の方が若干比率が高くなっています。うつ病は、病院で治療を受けられている患者様の間でも、高い比率で見出されます。そして、うつ病で治療を受ける人は、発病した人の一部に過ぎないのが実情です。しかし、これでは随伴する自殺未遂やアルコール依存などの問題への対応が後手に回ってしまうので、うつ病かと思われたら、なるべく早く治療を受けるようにされることが推奨されます。

 

これに対して、日本における双極性障害の生涯罹患率は、0.7%ほどです。一般的な傾向として、男女で大きな差はありません。双極性障害の場合、躁状態が現れた場合は多くの人が治療を受けているだろうと考えられています。

 

アメリカの調査によると、うつ病の発症確率は20代で最も高くなっています。しかし、高齢者がはじめて発症するケースもあります。双極性障害の発症年齢は、うつ病よりも若干若くなっています。人種や国によって発病率に違いがあることは報告されていません。

ニューロンの減少や萎縮などが原因

うつ病では脳内のミクロなレベルでの研究が進んでいます。この病気では、神経伝達物質であるモノアミン(セロトニン等)が減少し、その結果起こるニューロンの発生数の減少、ニューロンの萎縮などが症状を引き起こすのではないかと推定されています。さらに、ストレスに対する反応と考えられるコルチゾール(副腎皮質ホルモン)などの分泌が増加している一方で、内分泌系の反応数が低下していることも認められています。この他、脳の画像診断から大脳皮質の活動が全体的に低下していることなども明らかになっています。

 

うつ病や双極性障害の病因には、遺伝的要因が関係しているとされています。特に、双極性障害には遺伝的要因が明らかに関係していると考えられます。家族や親族の研究だけでなく、養子や双生児を対象にした研究においても、双極性障害、うつ病における遺伝的要因の関係が指摘されています。

 

うつ病を発症するきっかけには、重要な人物との離別や、重要ものを喪失する分離喪失体験が多いことが特徴的です。また、出産後にうつ病が発症しやすくなることも知られています。生まれてから早い時期に親と別れた体験がある子どもにうつ病が発病しやすいことも確認されています。

 

また、動物実験において、動物から外界をコントロールする感覚を奪うことを繰り返すと、人間のうつ病に似た状態が生じることも知られています。これは、「学習性無力感」と呼ばれるもので、人間のうつ病でも同様の過程がその発症に関与していると考えられています。つまり、強いストレスにさいなまれて外界に上手く反応できなくなる無気力の状態に陥ることによって、うつ病が発病すると考えられます。

死への願望や自殺を企てることも…

躁状態の診断には、気分の高揚と、精神的身体的な活動の量と速度の増加が最低数日間は続くこと、うつ病の診断には、抑うつ気分及び精神運動抑制が一定期間(2週間以上)続くことが必要です。うつ病のほかの診断基準としては、死への願望や自殺を企てたり、自律神経系の症状である睡眠障害た食欲不振もしくは体重減少などが挙げられます。また、うつ病では、朝早く目覚めたり、朝に症状が悪化する日内変動や体重減少といった特徴がみられることがあります。

 

妄想が生じることもあります。但し、うつ病や双極性障害などでみられる妄想は、その多くが気分の状態に沿うものだという特徴があります。即ち、うつ病では、自分の財産が全て失われたという貧困妄想や、酷い病気にかかってもう回復できないといった心気妄想が、そして躁状態では、自分は大変な財産を持っているとか、特別な能力があるといった誇大妄想がその典型です。

回復にはどの位時間がかかる…?

うつ病になった人の5人に2人は、発症から3ヵ月以内に回復しはじめ、5人に4人が1年以内に回復し始めます。そして、うつ病の患者様の50%は、治療を開始する以前にすでにうつ病を最低1回は体験していることが知られています。

 

治療から1年後で、50%が完全に回復します。また、5年後では85~90%が回復していると報告されています。回復しない患者様の多くは、うつ病が慢性化した状態の気分変調症に移行します。薬物療法を続けないと、治療後半年で25%が、2年で30~50%が、5年で50~75%が再発します。

 

これに対して、双極性障害は、多くの場合にうつ状態で発症します。躁状態のみで、うつ状態のない双極性障害は全体の10~20%です。躁状態は治療をしないと3ヵ月も続きますが、治療をすれば数週間でおさまります。躁状態の50~60%は炭酸リチウムなどによる薬物療法でおさえることができます。再発を繰り返すと寛解の機期間が短くなる傾向が認められます。

 

双極性障害の患者様の40~50%は2年以内に2回目の躁病再発を経験します。双極性障害は再発傾向の強い病気です。若い時期に発症したこと、職業に不適応だった経歴があること、アルコール依存症であること、再発間に抑うつ症状が認められる場合には、病気の経過が悪くなることが知られています。長期間の予後は、全体の15%が良好、45%が再発は多いが良好、30%が寛解か部分的なままで経過、10%が慢性化という経過をとります。

 

うつ病や双極性障害などの治療では、精神療法(心理療法)と薬物療法を組み合わせることが一般的です。精神療法では特に、患者様への心理教育や環境への介入を含めた支持的精神療法が基本とされます。また、別の精神療法として、抑うつ的認知の改善を目指す認知行動療法が行われています。

 

薬物療法では、最近は従来の抗うつ薬に加えて、副作用の少ない選択的セロトニン取込み阻害薬(SSRI)のほかに、セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬(SNRI)ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節薬(S-RIM)が広く使われるようになりました。

 

また、自殺念慮が強いケースなど、早急な改善が求められる場合には、入院治療が必要となります。うつ状態よりも躁状態の患者様の方が、治療を受け入れる傾向が乏しいので、入院治療が必要となってしまうケースが多くなります。再発する傾向が強いと考えられるケースに対しては、双極性障害に対しては、炭酸リチウム抗精神病薬により維持療法が行われており、うつ病に対しては、抗うつ薬による維持療法がおこなわれています。

このコラムを読まれまして、
気になる点がありました方や、興味・関心を抱かれた方は、
どうぞ当院まで、お気軽にお問い合わせください。

 

当院では、うつ病躁うつ病(双極性障害)をはじめ、

適応障害、不安症、睡眠障害(不眠症)、強迫症、

自律神経失調症、心身症、過敏性腸症候群、

パニック症、摂食障害(過食症)、統合失調症、

月経前症候群(PMS)、月経前不快気分障害(PMDD)、

大人の発達障害(ADHD、自閉スペクトラム症)など

皆さまの抱えるこころのお悩みに対して、

心身両面からの治療とサポートを行っております。

 

 

また当院では、診察と一緒に、専門の心理士(臨床心理士・公認心理師)資格を持ったカウンセラーによるカウンセリング(心理療法)も行っておりますカウンセリング(心理療法)をご希望される患者様は、診察時に医師にご相談下さい。

 

 

Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)

参考引用文献:Newton別冊精神科医が教える心の病の説明書