向精神薬と抗精神薬の違いとは?精神科専門医がわかりやすく解説
はじめに
精神的な症状の治療に使われる薬にはさまざまな種類がありますが、「向精神薬」と「抗精神薬」という言葉を耳にしたとき、違いがよくわからないと感じたことはありませんか?
実はこの2つの言葉は似ているようで、意味や使われ方に明確な違いがあります。この記事では、精神科医の立場から、向精神薬と抗精神薬の違いをわかりやすく解説します。
精神科の治療を受けている方、またはご家族が治療中の方にとって、薬に対する正しい理解は安心につながります。ぜひ参考にしてください。
向精神薬とは?
「向精神薬(psychotropic drugs)」とは、脳に作用して精神状態や行動に影響を与えるすべての薬の総称です。
代表的な向精神薬の種類:
- 抗うつ薬(SSRI、SNRIなど)
- 抗不安薬(ベンゾジアゼピン系など)
- 睡眠薬(ゾルピデム、ルネスタなど)
- 抗精神病薬(=抗精神薬)
- 気分安定薬(炭酸リチウムなど)
- ADHD治療薬(メチルフェニデートなど)
このように、向精神薬は非常に広いカテゴリーであり、「精神症状の治療に用いる薬すべて」が該当します。
したがって、抗精神薬は向精神薬の中の一部と考えると理解しやすいでしょう。
抗精神薬(抗精神病薬)とは?
一方で「抗精神薬(antipsychotics)」または「抗精神病薬」は、幻覚・妄想・興奮といった“精神病症状”を抑える目的で使われる薬です。
主な適応疾患:
- 統合失調症
- 双極性障害(躁状態のコントロール)
- 重度のうつ病(補助的に)
- 認知症の行動・心理症状(BPSD)
代表的な抗精神薬:
- リスペリドン(リスパダール)
- オランザピン(ジプレキサ)
- アリピプラゾール(エビリファイ)
- クエチアピン(セロクエル)
これらはドパミン受容体やセロトニン受容体などに作用し、異常な神経伝達を調整することで症状を抑えます。
向精神薬と抗精神薬の違いをまとめると?
比較項目 |
向精神薬 |
抗精神薬 |
範囲 |
精神状態に作用する薬全般 |
精神病症状を抑える薬 |
用途 |
幅広い(不安・うつ・不眠など) |
主に統合失調症など精神病 |
薬の種類 |
抗うつ薬・抗不安薬・抗精神薬など |
抗精神薬のみ |
作⽤機序 |
多様(セロトニン、GABAなど) |
主にドパミン調整 |
つまり、「向精神薬」は広義の言葉で、「抗精神薬」はその一部であるという関係です。
抗精神薬=強い薬?という誤解
抗精神薬というと、「重い病気に使う薬」「副作用が強い薬」という印象を持たれがちです。しかし、最近では副作用が少ない第二世代(非定型)抗精神薬が主流になり、治療の幅も広がっています。
また、統合失調症以外でも、双極性障害やうつ病、さらには自閉スペクトラム症の興奮症状などに対しても補助的に使われることがあります。
「抗精神薬=重病人だけの薬」といったイメージは、過去の情報に基づくものかもしれません。
服用にあたっての注意点
医師の指示に従うことが最も重要
向精神薬、抗精神薬ともに、自己判断での服用や中断はリスクを伴います。特に、急な中止は離脱症状(不眠、不安、頭痛など)を引き起こすことがあるため、必ず医師の指導のもとで調整しましょう。
副作用が出た場合はすぐ相談
口の渇き、体重増加、眠気などの副作用が見られることもありますが、多くの場合は用量調整や薬の変更で対応可能です。
精神科医からのアドバイス
薬に対する不安を持つ方は多いですが、「向精神薬だから怖い」「抗精神薬は重い薬」という固定観念は誤解です。
薬は、症状の改善と生活の安定をサポートする重要な手段です。もちろん副作用に配慮する必要はありますが、医師の指導のもとで適切に使えば、多くの方がQOL(生活の質)の向上を実感しています。
一人で悩まず、気になる点は遠慮なく主治医に相談してください。
まとめ:向精神薬と抗精神薬の違いを正しく理解しよう
- 向精神薬は精神症状に作用する薬の総称で、抗うつ薬や睡眠薬も含まれる
- 抗精神薬はその中の一部で、幻覚・妄想などを抑える薬
- 副作用が気になる場合も、正しい知識と医師のフォローがあれば安心
薬への不安があるときこそ、自己判断ではなく専門医のサポートが大切です。
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参考文献:
厚生労働省 e-ヘルスネット:向精神薬https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-040.html
MSDマニュアル家庭版:抗精神病薬https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/mental-health-disorders/drug-treatment-of-mental-health-disorders/antipsychotic-drugs
日本精神神経学会:「抗精神病薬の適正使用」ガイドライン
医中誌Web:向精神薬と副作用に関する国内研究
American Psychiatric Association. Practice Guideline for the Treatment of Patients with Schizophrenia.
監修者:
新宿ペリカンこころクリニック
院長 佐々木 裕人
資格等:精神保健指定医、精神科指導医・専門医
所属学会:日本精神神経学会