解離性障害の5つの症状!症状悪化を招く接し方や原因も詳しく解説
「自分が自分でないように感じる」「自分の中に別の人格がいるのではないか?」
このように悩んだり、普段の生活で困ったりしていませんか?
解離性障害の症状のひとつで、過去のトラウマや強いストレスからこころを守るための反応かもしれません。
この反応を放っておくと、解離性障害の症状が悪くなる恐れがあります。
解離性障害の主な症状や原因、症状が悪くならないように心がけたいことなどをわかりやすく解説します。この記事が、自分が自分ではないような感覚に悩まれているあなたの悩みを解決できるきっかけになれると幸いです。
解離性障害と障害とは?|自分と記憶・意識が分離する病気
解離性障害とは「ひとりの人間の中に他の人格がいたり、外から自分をみる感覚になったりと自分が自分でないように感じる病気」です。
国内で約200人の解離性障害の患者さまを対象にした調査では、思春期から30代にかけて多く、患者さまの約8割が女性であることが明らかになりました。
本来であれば記憶や意識、思考にくわえ感情や知覚、自分の体についてのイメージなどはつながっています。
ただし、解離性障害の方はそれぞれが切り離されています。無意識のうちに自分がした行動が、本来の自分に戻ったときに記憶に残っていないため自分の中で混乱が生じます。
解離性障害の症状は、人間関係や普段の生活に支障をきたすのです。
解離性障害はそのまま放置しても症状の改善はみられないため、こころのケアを専門とする医師や専門的な場所で治療することが重要です。
解離性障害の原因
解離性障害の原因は明確にはなっていません。
こころに大きなストレスがかかるときに、こころを守るために本来の自分とは異なる自分が出現すると考えられています。
ここでは、解離性障害を引き起こす主な原因をみてみましょう。
トラウマ体験
解離性障害の原因のひとつはトラウマ体験です。トラウマ体験とは、過去に以下のような精神的な負担が大きい経験をすることです。
- 身体的・精神的虐待
- 性的虐待
- 重大な事故
- 自然災害 など
こういった体験をすると、自分のこころがうまく受け入れられないことがあります。その結果として、こころが崩れ現実感がなくなる「解離」という反応を引き起こします。
そのため「別の人格が現れる」「自分が自分でないように感じる」などの解離性障害を引き起こすのです。
苦痛への対処
解離性障害の2つ目の原因は苦痛への対処です。
苦痛への対処とは、以下のような精神的な負担があるときにこころがうまく対処できないことです。
- 子どものときの虐待
- 重大な事故
- 大切な人との死別 など
このようなときに、こころが「逃げなければならない」と感じるために解離という症状を引き起こすケースがあります。
長期的に症状が続く場合は、からだとこころのつながりが崩れ症状が明らかになりやすいです。
生まれ育った環境
解離性障害の3つ目の原因は生まれ育った環境です。
両親や療育者からの愛情やサポートは、こころの発達においてとても重要です。以下のような家庭で育った場合、こころの発達が十分ではないケースがあります。
- 家庭内暴力
- 両親からの虐待
- ストレスが多い など
両親からの愛情やサポートが十分でないと感じると、さまざまな感情を処理するのが難しくなります。その結果、大きなストレスがかかったときに自分を守るための手段として解離性障害を引き起こします。
h3:もとともの性格
解離性障害の4つ目の原因は、もともとの性格です。具体例は以下のとおりです。
- 敏感な人
- 内向的な人
- ストレスを溜め込みやすい人
- 対人関係で問題を抱えやすい人
- 完璧主義な人 など
ただし、このような性格があるからといって、かならず解離性障害を引き起こすわけではありません。
これらの性格にくわえ、なにか重大なストレスがかかったときや、トラウマに対して「自分のこころ」を守るための反応として解離性障害を引き起こす可能性があります。
解離性障害の主な5つの症状
解離性障害の症状は、「こころ」をつらい出来事や不安から守るための反応とされています。解離性障害ではさまざまな症状があり、人によって症状のあらわれ方は異なります。
ここでは、主な5つの症状をみてみましょう。
解離性健忘|記憶の一部を思い出せなくなる
解離性健忘とは「名前」「年齢」「職業」「自分の過去の経験」などの情報や特定の出来事、ある一定期間の記憶などを失うことです。具体例は以下のとおりです。
- 自分の名前や家族の情報を思い出せない
- ストレスの高い出来事(事故や大切な人の死など)に遭遇した期間の記憶が完全にない
- 仕事や趣味で得たスキルが使えない
- 家族や親友などをまったく知らない人かのように振る舞う
これは、単なるもの忘れではありません。
トラウマや過度なストレスからこころを守るための防衛反応として「記憶」を切り離します。その結果、つらい思い出から一時的に逃れることができます。
解離性遁走|知らない場所に行ってしまう
解離性遁走(とんそう)とは、自分の現在の生活から逃れるようにして、家や職場を離れる症状です。
この症状は数日間または、数週間に及ぶこともあります。突然、本来の自分を思い出し、どうやってここに来たのか混乱します。
解離性遁走では、遁走した間の記憶がほとんどないことが多く自分でも「なぜここにいるのか」を理解できません。
これはトラウマやストレスから逃げるための反応といえます。
解離性同一性障害|人格が入れ替わる
解離性同一障害とは、自分の中に別の人物がいて、交互に全面に出てくる症状です。
別の人物が複数になる場合もあります。
たとえば、解離性同一障害を抱えるAさんの中に、BさんやCさんという別の人物がいるケースをみてみましょう。
- Aさんはおとなしい性格で、あまり意欲的ではない
- Bさんが前に出てくるときは、Aさんはとても社交的で積極的に行動する
- Cさんが前に出てくるときは、Aさんは静かにひとり黙々と作業に取りかかる
このように、本来のAさんの性格とはまったく別の人物が存在します。
ただし、Bさんが前に出てるときはCさんが前に出ていたときのことを覚えてないのが一般的です。そのため、時間が失われたり、自分の行動に混乱したりします。
自分の中に存在する別の人物の人格は、トラウマやストレスの反応として作られることがあります。
離人症|現実感がなくなる
離人症とは、自分が自分の体や精神から分離されているように感じる状態です。
自分の考えや感情、経験などが自分のものと感じられず、現実感がなくなります。具体例をみてみましょう。
- 自分の感情が感じられない
- 自分の体が他人のものに感じる
- 自分の考えが自分でないように感じる
- 自分との距離がある
- 周りの世界がぼんやりする
- 夢の中にいる感覚がある
これらの症状はストレスや不安など、精神的な負担がかかるときにあらわれやすいです。
h3:解離性昏迷|自発的な運動や発語がなくなる
解離性昏迷とは、意識があるにもかかわらず「話せない」「からだが動けない」「周りに反応できない」など他者から意識がないようにみえる状態です。
意識がないようにみえますが、実際には意識がはっきりしており、起きている出来事を覚えています。
解離性昏迷は過度なストレスやトラウマが原因で、つらい現実から逃れるために周りをシャットダウンしてこころを守る反応のひとつです。
解離性障害の診断
解離性障害は、アメリカ精神医学会による基準(DSM-5)や問診などから総合的に判断し診断します。以下に診断基準の一部を紹介します。
【解離性健忘診断基準】
① | 普段忘れないような重要な自分の情報を思い出せない |
② | ①の症状により、日常生活や社会生活に支障がある |
③ | ①の症状は薬や他の病気が原因ではない |
参考元:解離性健忘 – 08. 精神障害 – MSDマニュアル プロフェッショナル版
【解離性同一症診断基準】
① | 2つ以上の人格がみられる |
② | 日常のできごとや個人情報などの記憶に空白がある |
③ | ①の症状によって日常生活に支障がある |
参考元:解離性同一症 – 08. 精神障害 – MSDマニュアル プロフェッショナル版
【離人症診断基準】
① | 自分が自分のからだや精神から離れている、現実感がないと感じる |
② | ①の症状が現実ではないと感じる |
③ | ①の症状によって日常生活に支障がある |
参考元:離人感・現実感消失症 – 08. 精神障害 – MSDマニュアル プロフェッショナル版
解離性遁走や、解離性昏迷については医師の問診をもとに診断されます。また、診断基準があっても、医師による問診を合わせて総合的に診断されます。
問診の具体的な内容は以下のとおりです。
問診 | 具体例 |
現在の症状 | ・どのような症状があるか
・いつから症状が出てるか ・症状の頻度や持続時間はどのくらいか ・日常生活や対人関係に支障があるか |
過去のトラウマ | 過去に「身体的」「精神的」「性的」虐待を受けた経験があるか |
記憶の喪失 | ・特定期間の記憶がないことがあるか
・名前や住所などを忘れたことがあるか |
解離症状 | ・自分が2人以上いると感じることがあるか
・現実感がないようなことがあるか |
その他の症状 | 不安やうつ症状など他の心配なことがあるか |
ただし、医師が解離症状をすぐに確認できないことがあります。
というのも、病院を受診するときには、解離性障害の症状が落ち着いているケースがあるためです。
そのため、解離性障害の診断には時間がかかる場合があります。
さらに、統合失調症やうつ病などそのほかの病気が隠れている恐れがあるため、脳のCTや血液検査などが必要になるときもあります。
解離性障害の治療法
解離性障害の主な治療は、心理療法と薬物療法です。
患者さまそれぞれで症状や程度は異なるため、患者さまにあった治療法をみつけることが大切です。
治療には時間がかかるため、焦らずゆっくり時間をかけて症状コントロールを目指します。心理療法と薬物療法についてくわしくみていきましょう。
h3:心理療法
心理療法ではトラウマやストレスからこころを守るために、つらい経験やストレスを切り離し、受け入れるようにすることを目指します。
自身に起こる解離症状を理解し対処することで、普段の生活のトラブルを減らします。心理療法の具体的な方法をみてみましょう。
心理療法 | 目的と特徴 | 具体例 |
行動療法 | 症状が出そうな状況を理解し、気持ちを落ち着かせる方法を学ぶ | 深呼吸・瞑想・筋弛緩法(肩や手などからだの一部にギュッと握力を入れてからゆっくり力を抜く)など |
認知療法 | 問題が生じたときにネガティブな考え方ではなくポジティブな考え方をみつけることで、トラウマやストレスに対する不安を減らす | トラウマを経験した場所で「また悪いことが起きる」と思うのではなく「今は安全である」と実感し、不安に対処できるようになる |
対人関係療法 | 対人関係の問題に焦点をあて、解離症状を引き起こす原因を減らす | 親友との関係が悪化し症状が増えたときに関係をみつめ直す。そして良好な関係を築けるコミュニケーションを学び、感情をコントロールする |
精神分析 | 心の奥深くにある無意識な行動や感情が、自分の行動にどう影響するかを探る | 同じ場所でいつも症状を引き起こすのは過去にトラウマ体験があったため、無意識のうちにその記憶を避けようとしていた |
精神力動的
精神療法 |
感情や思いがどのようにつながり合い、自分の行動の感じ方に影響を与えているのか考える治療法 | 人と親密になることに恐怖を感じるのは「過去に裏切られたことがきっかけ」と向き合う方法を学ぶ |
支持的
精神療法 |
患者さまの自己肯定感を高め、日常生活で直面する問題を乗り越えるようサポートする治療法 | 解離症状が出たときにも安心して話せる場がある、ポジティブフィードバックやアドバイスをもらえる場所があると安心できる感覚を学ぶ |
心理療法はすぐに効果があらわれるわけではありません。長い時間をかけてゆっくり症状を改善します。
ですが、心理療法をおこなうなかでトラウマやストレスと向き合うため、自分のつらい記憶がよみがえり、追加で治療が必要になることもあります。
そのため、医師や心理士など専門家と一緒に取り組むことが大切です。
薬物療法
現段階では、解離性障害に有効な薬剤はありません。
解離性障害によって引き起こされる不安やうつ症状などに対し、症状を落ち着かせるために薬を使うことがあります。
たとえば、以下のような症状のときです。
- 眠れない
- やる気が出ない
- いつも不安に感じる
ただし、解離性障害を治すためのものではないことを知っておきましょう。
解離性障害の悪化を招く接し方と行動
解離性障害は、適切な治療により症状をコントロールが可能です。
ですが、誤った対応を続けると症状が悪くなったり、日常生活に支障をきたしたりするリスクがあります。
ここでは「本人がしてはいけないこと」と「周囲の人はしてはいけないこと」にポイントをしぼり解説します。
本人がしてはいけないこと
ここでは本人がしてはいけないことを3つのポイントを紹介します。
①過度にストレスを溜める | 解離症状の増悪のリスクが高まるため |
②アルコールや薬物乱用する | 一時的に問題から逃避できても、解離症状悪化のリスクを高めるため |
③適切な治療を受けない | 自然になることはなく、症状が悪化するため |
解離性障害の症状は、適切な治療を受けることでコントロールが可能です。「つらい過去」や「先のみえない不安」などひとりで抱えこまず、ぜひ専門家に相談してみてくださいね。
周囲の人はしてはいけないこと
解離性障害を抱える方は、症状がつらく、先がみえないため不安な思いをしてます。
そのため、やさしく受け入れることが重要です。以下に周囲の方が避けたい行動と言動の具体例を紹介します。接するときにお役立てください。
①症状を軽くみること | 気持ちを受け入れることが重要
例)「気のせいだよ」「誰にでもあるよ」など |
②無理やり思い出させようとする | 理に聞くのではなく、自然に話せる環境を作ってあげることが重要
例)「話してみな」「全部言ったらスッキリするよ」など |
③治るのを急かす | 治療には時間がかかるため、プレッシャーを与えないことが大切
例)「いつ治るの?」「まだ治らないの?」など |
まとめ
解離性障害は「自分が自分でなく感じる」こころの病気です。
家族や友人などの対人関係や、学校や仕事などの日常生活で問題を生じることがあります。そのままにしていても、症状が治ることはありません。
ただし、適切な治療を受けることで症状のコントロールが可能です。気になる症状がある場合は、おひとりで悩まずぜひ当院までご相談ください。
監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医)