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【医師監修】病気やケガのときに傷病手当金を受給するためのポイントを詳しく解説

長時間労働、人間関係、複雑なマルチタスクなどストレスの多い今の職場環境では、適応障害、うつ病などにより、休業する方が多くなっています。

 

このようなとき、生活費の心配を軽減し、心療内科等での療養に専念できる制度が健康保険による傷病手当金です。

 

このコラムでは、傷病手当金の概要、受け取るための手続きや注意すべきポイントをご紹介します。

 

【目次】

1 傷病手当金とは

  • 傷病手当金の支給条件
    • 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
    • 仕事に就くことができないこと
    • 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
    • 休業した期間について給与の支払いがないこと
  • 傷病手当金が支給される期間
  • 傷病手当金の支給日額
  • 退職後の継続給付

 

2 傷病手当金を受け取るための手続き

(1)被保険者(本人)による申請書の記入

(2)事業主による申請書の記入

(3)療養担当者による申請書の記入

(4)申請期限

 

3 年金、労災保険、その他制度との関係

  • 年金
  • 労災保険
  • 出産手当金
  • 民間の就業不能保険

 

4 傷病手当金が受け取れないケース

  • 継続的に療養を受けていない
  • 副業で収入がある
  • 故意による傷病
  • 退職日に出勤した

 

5 まとめ

 

 

1 傷病手当金とは

 

傷病手当金とは、病気休業中に健康保険の被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた健康保険の制度です。

 

健康保険の被保険者が病気やケガのために会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられないときに支給されます。

 

例えば、適応障害などで心療内科に受診し、有給休暇を使い切ってしまったときや病気休暇の上限日数を超過したときに申請します。

 

(1)傷病手当金の支給条件

傷病手当金の支給を受けるためには、次の4つの条件を全て満たしていることが必要とされています。

 

  • 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること

業務に起因するケガや通勤時の交通事故は労災保険や公務災害補償の対象となるため、健康保険の制度である傷病手当金は重複して受給できません。

 

また、美容整形などの病気とされないものについても受給できません。

 

例えば、夫の浮気や離婚といった家庭環境の悪化が原因となり、心療内科で適応障害と診断されたときは、業務に起因しない病気ですので、傷病手当金の対象となります。

 

一方で、月に100時間を超える残業が数か月続いたことにより心療内科でうつ病と診断されたときは、業務に起因した病気とされる可能性が高いので、補償がより手厚い労災保険の適用が受けられる可能性があります。

 

どちらを適用した方がよいか迷ったときは、心療内科スタッフや社会保険労務士といった専門家にご相談されることをおススメします。

 

 

  • 仕事に就くことができないこと

傷病手当金の申請書に病気やケガで仕事につくことができないということについて、医師の証明を受けることが必要です。

 

例えば、適応障害のため仕事に就くことができる状況にないと心療内科の医師が診断すると、その旨を申請書の証明欄に記載してもらえます。

 

 

  • 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと

残念ながら傷病手当金は休業初日からすぐに支給される制度にはなっていません。

 

業務外の理由による病気やケガの療養のため仕事を休んだ日から、連続して3日間の「待期期間」の後、4日目以降の仕事に就けなかった日に対して支給されます。

 

なお、待機期間には有給休暇、土日・祝日等の公休日も含まれます。

 

(図の出典)

全国健康保険協会神奈川県支部 健康保険委員研修会資料

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/file/R0301kyoukai.pdf

 

 

  • 休業した期間について給与の支払いがないこと

給与が支払われている間は、原則として傷病手当金は支給されません。

 

従って、年次有給休暇、夏季休暇、有給の病気休暇の間は待期期間には算入されますが、傷病手当金の支給はありません

 

但し、傷病手当金よりも少ない額の支払いが行われている場合は、傷病手当金との差額部分が支給されます。

 

 

(2)傷病手当金が支給される期間

現在の制度では、心療内科で診断される疾病に関する傷病手当金が支給される期間は、支給を開始した日から通算して1年6ヵ月が上限となっています。

 

なお、健保組合によっては、傷病手当金付加金として、法定の傷病手当金の支給期間満了の後も継続して休業しているときに、6ヵ月程度の延長期間が設けられていることがあります。

 

詳しくは加入している健保組合のホームページの健康保険給付又は短期給付の欄をご覧ください。

 

(図の出典)

全国健康保険協会神奈川県支部 健康保険委員研修会資料

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/file/R0301kyoukai.pdf

 

 

(3)傷病手当金の支給日額

傷病手当金は実際に休業した日を基準として支給されます。

 

この算定基準となる支給日額は、支給開始日以前の継続した12ヵ月の標準報酬月額を平均した額÷30×2/3と定められています。

 

なお、健保組合によっては、付加給付として支給額の上乗せが行われることがあります。

 

標準報酬月額は、直近の給料明細や健保組合から送られてきた決定通知をご覧ください。

 

 

(4)退職後の継続給付

退職日まで被保険者期間が継続して1年以上あり、被保険者資格喪失日の前日に傷病手当金を受けているか、受けられる状態であれば、退職後(健保組合の資格喪失後)も引き続き支給を受けることができます

 

ただし、退職後の継続給付については、一旦仕事に就くことができる状態になった場合、その後更に仕事に就くことができない状態になっても、傷病手当金は支給されません。

 

例えば、うつ病の状況が良くなったため、心療内科医師の許可を得てアルバイトを始めたときは、傷病手当金は打ち切りとなります。

 

また、退職後、心療内科等での治療が中断されたときも傷病手当金が中断日以降は支給されなくなり、この場合は復活もできませんので注意が必要です。

 

 

2 傷病手当金を受け取るための手続き

 

傷病手当金を受け取るためには、加入している健保組合が定める申請手続きを行う必要があります。

 

傷病手当金の申請書には、被保険者記入欄、事業主記入欄及び療養担当者記入欄(心療内科医師等)があります。

 

療養中、負担がかかる手続きとはなりますが、生活費を得るために必要ですので、分からないことがあれば、健保組合職員やかかりつけの心療内科スタッフに相談してみましょう。

 

 

(1)被保険者(本人)による申請書の記入

被保険者(本人)記入欄には、次の項目を記入することとなります。

 

なお、加入する健保組合によっては項目が一部異なることがあります。

 

・被保険者証記号番号

(健康保険証の上部に記載されている番号です。社員番号と混同されることが多いので

注意が必要です。)

・生年月日

・氏名

・住所、電話番号

・振込先指定口座

(健保組合に給付に関する口座の指定を行っているときは省略可能となることがありま

す。また、被保険者と同じ名義の口座に限られます。)

・申請期間

(療養のために休んだ期間を記入します。1か月毎に記入する方が多い傾向にあります。)

・被保険者の仕事の内容

(例えば、「総務事務担当」「プログラマー」といったように、簡潔に記載します)

・傷病名

(職場に心療内科医師等が発行した診断書を提出しているときは、当該診断名を記入し

ます。審査の際には、療養担当者記入欄やレセプトデータとの整合性がチェックされ

ることがあります。)

・発病、負傷年月日

(傷病名と同じく、診断書、療養担当者記入欄、レセプトデータとの整合性に留意する

必要があります。)

・傷病の原因

(労災保険の適用であるかどうか、交通事故等の第三者行為による傷病に該当するか等

の確認欄となります。「仕事中以外での傷病」であれば、その旨を記入し、傷病手当金

の対象であることを示します。)

・確認事項

(報酬、障害年金、老齢年金、労災保険からの休業補償給付を受給していないことを確

認する欄となります。もし、「いいえ」以外の回答を行う必要があるときは、事前に健

保組合に相談することをオススメします)

 

 

(2)事業主による申請書の記入

事業主は、被保険者の休業記録、出勤していない日に対して報酬等を支給したことがあれば、当該事項の証明を行います。

 

もし、精神的に事業主との直接コンタクトを取るのが困難であるときは、心療内科スタッフや社会保険労務士にご相談されることをおススメします。

 

・勤務状況

(本人記入欄に記載された申請期間について、出勤した日付を〇で表示します。なお、

出勤した日付は、所定労働時間の一部のみ労務に服した日も含みます。)

・賃金支給状況

(有給休暇の場合の賃金、出勤等の有無にかかわらず支給している扶養手当、社宅など

の現物支給について記載されます。)

 

 

(3)療養担当者による申請書の記入

療養担当者(心療内科医師等)の意見を記入する欄は、労務不能であることを証明する最も重要な項目となります。

 

なお、診療機関によっては文書料が必要となることがあります。

 

・労務不能と認めた期間

(勤務先での従前の労務に服することができない期間をいいます。審査の際には、本人

記入欄の申請期間との整合性が確認されます。)

・傷病名

(適応障害など、労務不能の原因となった傷病名が記入されます。本人記入欄の傷病名

は、通常、この医師記入欄の傷病名と同一となります。)

・初診日

(傷病名に係る療養の給付の開始年月日となります。審査の際にレセプトデータと照合

されることがあります。)

・発病又は負傷の原因

(傷病名に至った原因が簡潔に記載されます。)

・発病又は負傷の年月日

(通常は、初診日と同じ日付となります。)

・労務不能と認めた期間に診療した日があったか

(継続的に療養を行っていることを証する欄となります。もし、継続的に療養が行われ

ていないときは「いいえ」との回答がなされ、傷病手当金の支給が否認されることと

なります。)

・申請期間中における主たる症状、経過、治療内容、検査結果等

(労務不能と判断するに至った具体的な医学的所見が記載されることとなります。経験豊富な心療内科に受診すると、スムーズに審査を受けられる記載内容が期待できます。)

 

 

(4)申請期限

傷病手当金を受ける権利は、受けることができるようになった日の翌日(消滅時効の起算日)から2年で時効になります。

 

傷病手当金の消滅時効の起算日は、労務不能であった日ごとにその翌日となりますので、できるだけ早く手続きするようにしましょう。

 

 

3 年金、労災保険、その他制度との関係

 

傷病手当金の受給に際しては、類似した社会保障制度との調整があります。

 

全額又は一部金額が受け取れないことがありますので、申請の際には注意が必要です。

 

(1)年金

傷病手当金を受ける期間が残っていた場合でも、同じ病気やケガで障害厚生年金を受けることになったときは、傷病手当金は支給されません

 

ただし、障害厚生年金の額(同時に障害基礎年金を受けられるときはその合計額)の360分の1が傷病手当金の日額より低いときは、その差額が支給されます。

 

また、厚生年金保険法による障害手当金が受けられる場合は、傷病手当金の額の合計額が、障害手当金の額に達する日まで傷病手当金は支給されません。

 

同様に、資格喪失後に傷病手当金の継続給付を受けている方が老齢年金を受けているときは、傷病手当金は支給されませんが、老齢年金の額の360分の1が傷病手当金の日額より低いときは、その差額が支給されます。

 

 

(2)労災保険

過去に労災保険から休業補償給付を受けていて、休業補償給付と同一の病気やけがのために労務不能となった場合には、傷病手当金は支給されません。

 

また、業務外の理由による病気やケガのために労務不能となった場合でも、別の原因で労災保険から休業補償給付を受けている期間中は、傷病手当金は支給されません

 

但し、休業補償給付の日額が傷病手当金の日額より低いときは、その差額が支給されます。

 

 

(3)出産手当金

原則として併給されませんが、傷病手当金の額が出産手当金の額よりも多ければ、その差額が傷病手当金として支給されます。

 

 

(4)民間の就業不能保険

公的医療制度ではありませんので、民間の就業不能保険への加入や保険金受領の有無については、傷病手当金の支給の審査に影響しませんし、関係資料の提出を求められることはありません。

 

住宅ローンなどの団体信用生命保険に付帯して加入する債務返済支援保険も同様です。

 

但し、これらの保険金請求の際には、傷病手当金申請とは別に心療内科医師等の診断書や証明書が求められます。

 

 

4 傷病手当金が受け取れないケース

 

傷病手当金の受給にあたっては申請が否認されたり、途中で打ち切られてしまったりするケースがあります。

 

何気ない行動が取り返しのつかないことになりかねませんので、細心の注意が必要です。

 

  • 継続的に療養を受けていない

傷病手当金の目的は、治療で仕事を休んでいる無給期間の自分や家族の生活費を健康保険で支えることにより、心療内科等で治療に専念できる環境を整えることにあります。

 

従って、健保組合では、傷病手当金の審査にあたって、申請書の内容と医療機関から請求されるレセプトの内容を突合することにより、申請者が継続的に療養に励んでいるか確認することがあります。

 

もし、療養が中断されていることが確認されたときは、傷病手当金の支給が中断されることがあります。

 

とはいえ、心療内科に関する疾病では、外出することや診察を受けることが困難な方もいらっしゃいます。

 

そのようなときは、オンライン診療や訪問診療といった方法で療養を継続できる可能性がありますので、病院にご相談ください。

 

なお、処方された薬を服用しないなど、自己都合で医師の指示に従わないことも、療養をしていないとみなされますので、注意が必要です。

 

 

(2)副業で収入がある

本業での休業期間中に、アルバイトやフリーランスといった副業で収入があるときに傷病手当金申請書を提出することは、虚偽申告になります。

 

発覚した場合は支給停止・返金請求に加え、詐欺罪で逮捕される可能性があります。

 

本業の負荷には耐えられないが、副業でならなんとか耐えられるというときは、その旨を心療内科医師に伝え、職場の産業医や人事担当者と協議のうえ、配置転換の可能性を探るとよいでしょう。

 

 

(3)故意による傷病

自殺未遂や、犯罪行為など故意に負った傷病は傷病手当金の対象になりません

 

心療内科で療養中には、自暴自棄になりたい衝動に駆られることがあるかもしれませんが、傷病手当金の観点からも今一度深呼吸をしていただき、医師等に相談ください。

 

 

(4)退職日に出勤した

退職時には、これまで勤めてきた職場に挨拶や引継をしたいというのが人情です。

 

しかしながら、傷病手当金を退職後も継続して受給するためには、退職の時点で傷病手当金を受けており、受ける条件を満たしている必要があります。

 

退職日に挨拶のために出勤すると、3日連続で仕事を休んでいるという条件に当てはまらなくなってしまいます。

 

最終日だけだからと出勤してしまった場合は、その時点で給付が終了してしまいますので注意が必要です。

 

傷病手当金の打ち切りでトラブルになるケースとして最も多いのがこの事例です。

 

 

5 まとめ

 

傷病手当金はこれまでに納めてきた医療保険の掛金、雇用主の負担金で運営されており、制度を利用できる方は受給する権利があります

 

条件に該当する方は、療養に専念して、元の生活に戻るためにも、遠慮することなくしっかりと傷病手当金の申請を行うことをオススメします。

 

当院では、心療内科分野における傷病手当金の証明を数多く経験しておりますので、ぜひお声をおかけください。

 

参考文献

厚生労働省web

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/index.html

https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000619554.pdf

 

 

全国健康保険協会web

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3040/r139/

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat320/sb3170/sbb31710/1950-271/

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g6/cat620/r307/

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/file/R0301kyoukai.pdf

 

 

 

監修 佐々木裕人(精神科専門医・精神保健指定医)