「出産後に気分が落ち込む」
「泣いたり怒ったり感情が不安定になっている」
「子供に愛情を持てないことがある」
このように悩んでいませんか?
出産後に同じ悩みを抱えている方は多いでしょう。これらは、産後うつの症状であると考えられます。この記事では、以下の内容を紹介します。
- 産後うつを発症する原因
- 産後うつの症状と診断
- 産後うつを乗り越えるためのサポート
この記事を読むことで、産後うつの原因や症状を知ることができ、うまく対処できるでしょう。
産後うつとは?|出産後に起こるうつ症状のこと
産 後うつとは、出産後数週間から数ヶ月以内に発症するうつ症状です。出産後の母親の10〜15%に発症するといわれています。発症する原因は、以下の5つです。
- ホルモンバランスの乱れ
- 妊娠や育児に対する不安
- 環境の変化
- うつ病の既往
- 配偶者のサポート不足
それぞれの原因を知っておきましょう。
産後うつの主な症状
産後うつの主な症状は、以下の7つです。
- 感情が不安定で気分の波がある
- 自分を責める
- 気分が落ち込む
- 過眠や不眠症状がある
- 性行為やほかの活動への興味が薄れる
- 食欲減退や過食する
- 自殺・他殺念慮がある
産後うつは、育児だけではなく本人のこころとからだに大きく影響するといえます。こころの不安定さが原因で、赤ちゃんを愛せず赤ちゃんを叩いたり、危害を加えてしまったりするケースがあります。
さらに、東 京都23区を対象とした調査では、産後の自殺した方の割合のうち産後うつが33%にかかわっていると考えられています。
自殺や赤ちゃんに危害を加えることを防ぐためにも、夫やほかの家族のサポートが欠かせません。真面目で責任感が強い母親は、誰にも相談せず1人で抱え込む傾向があります。
そのため、夫やほかの家族に相談したり、産婦人科や心療内科で治療を受けたりすることが大切です。
産後うつの診断
産後うつを早く発見し診断することは、母親にも赤ちゃんにとっても重要です。以下のような症状がある場合、産後うつが疑われるため、当てはまるものがあれば産婦人科や心療内科に相談しましょう。
- 2週間以上抑うつ症状が続く
- 日常的な活動がつらく感じる
- 自殺や赤ちゃんを傷つけたいと思ってしまう
- 幻覚や妄想などがある
また、産後うつをスクリーニングするために「エジンバラ産後うつ病質問票」があります。この質問票は、妊婦や出産後1年未満の女性が対象です。
「過去7日間に感じたことに最も近い答えをチェックする」内容であり、全部で10項目です。
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参照元:妊産婦メンタルヘルスケアマニュアル|公益社団法人 日本産婦人科医会会
1問につきそれぞれ選択肢が4つあり、0〜3点で評価されます。
合計点が9点以上または、質問10が1点以上であると産後うつの疑いがあります。ただし、このスクリーニングで産後うつと診断できるわけではありません。また、高得点であってもうつ病の重症度が高いわけではないため、あくまでも参考程度としてください。
このような症状があっても、母親は家事や育児で忙しく家族に言い出せない場合があります。そのため、コミュニケーションをとり母親の負担を軽減して気持ちを理解することが大切です。
産後うつの原因は?|夫の可能性も
産後うつの原因はくわしくわかっていません。ですが、以下の要因がかかわっていると考えられます。
- 精神疾患の既往
- 妊娠中のうつ症状や不安
- 配偶者や家族のサポート不足
産後うつの原因は、身近にいる夫の可能性もあります。
というのも、産後はホルモンバランスの崩れていたり、体調がすぐれなかったりする状況であるにもかかわらず、夫が育児や家事に協力的ではないケースでは産後うつになりやすいためです。
そのため、夫によるサポートは必要不可欠です。サポートがないと母親はこころもからだも疲れきってしまいます。
さらに、疲れによりメンタルが不安定になりやすく、夫婦の問題になる可能性があります。それがきっかけで産後うつになるリスクが高まります。
夫が家事や育児のほかにも精神的なサポートをおこなえば、妻の負担は減り産後うつになるリスクを軽減できるでしょう。
また、夫は状況をうまく理解できていない可能性があるため、母親が自分から自身の症状や気持ちを打ち明けることも大切です。
産後うつの発症時期はいつまで?|産後3ヵ月にわたって徐々にあらわれる
産 後うつの症状は3ヵ月に渡って徐々にあらわれますが、何の前触れもなくあらわれることもあります。治療しない場合は、症状は数ヶ月から数年間続くことがあり、約3~4人に1人の割合で再発します。
そのため、出産から1年は産後うつの症状に注意した方がいいでしょう。
ただし、なかには発症しやすいといわれる時期を過ぎて、子どもが2歳になる頃にイヤイヤ期と呼ばれる第一次反抗期がおとずれるときも注意しなければなりません。
子どもの主張が強くなったり、癇癪を起こしたりして母親のストレスがたまりメンタルヘルスの不調をきたす可能性があります。
不安や悩みは赤ちゃんが成長するにつれて変化します。その期間はとくに、夫や家族がサポートできると安心できるといえるでしょう。
産後うつの乗り越え方
産後うつを乗り越えるには、さまざまなサポートを受けることが大切です。主に以下のような方法があります。
- 夫や家族にサポートしてもらう
- 産婦人科や心療内科に相談する
- 行政のサポートを活用する
それぞれについてくわしくみていきましょう。
夫にもっとサポートしてもらう
産後うつを乗り越えるために、夫のサポートはとくに重要です。
産後の母親の気持ちを理解するためには、産後うつについて知っておくことも欠かせません。産後うつについて知っていると「産後うつの症状なのではないか」と早く気づけるでしょう。
子育ては、思い通りいかず大変な思いをしている母親も多いはず。
特に、初めての赤ちゃんである場合は「どのように対応したらいいのか」「この育児の方法で本当にいいのだろうか」など不安になったり、心配になったりします。
以前は、育児は母親だけがやるものという風潮がありました。未だに、母親自身が「わたしがやらなければ」と考えてしまう方がいるかもしれません。
そのため、夫や家族が一緒に育児していこうと言葉で伝えてあげると「頼っていいんだ」と母親の気持ちが軽くなるでしょう。
産後うつになったら産婦人科や心療内科に相談する
産後うつになったら産婦人科や心療内科に相談しましょう。これらの医療機関では、母親の症状に合った専門的な治療を受けられたり、アドバイスを受けられたりします。
産後うつの主な治療法は以下の2つです。
- 精神療法
- 薬物療法
精神療法では「物事の捉え方を考え直す認知行動療法」や「周りの人との対人関係を見直す対人関係療法」などがあります。
産後うつでは、感情が不安定になり物事の捉え方も偏りやすくなります。そのため、精神療法をおこなうことで、考え方が間違っていると気づいたり、偏った考え方を修正したりすることが大切です。
薬物療法では、主に抗うつ薬が用いられます。
抗うつ薬は、気分の落ち込みや不安症状を改善する効果が期待できます。ですが、薬の種類はさまざまであり、副作用もあるため医師からの説明を十分に受けましょう。
服薬中に授乳する場合が多いため医師に相談してください。
行政のサポートを活用する
産後うつを乗り越えるために、行政のサポートを活用することもできます。産後ケアというサポートがあります。産後ケアセンターや病院、クリニックなどの施設で受けたり自宅で受けたりできます。
サポート内容は、主に心身のケアや授乳指導をはじめ育児指導、生活に関する相談などです。産後ケアは、宿泊型やデイサービス型、アウトリーチ型の3パターンがあります。
サポートの型 | 注意点や特徴 |
宿泊型 | ・病院や助産所に赤ちゃんを預けて個室で宿泊できるサービス
・施設によって宿泊できる日数は異なる ・夜泣きが原因で睡眠不足な方におすすめ ・サービス内容は、母親の心身や育児相談、赤ちゃんのケア |
デイサービス型 | ・日中に産後ケア施設に訪問し、個別または集団でのケア
・ケア内容はお母さんには睡眠や休憩、食事の提供、心身にかかわる相談 ・赤ちゃんには、体重測定や栄養、健康状態のチェック |
アウトリーチ型 | ・看護師や助産師が自宅を訪問しケアを提供
・ケア内容は、育児や授乳方法、不安の解消などの支援 |
それぞれサポートは看護師や助産師、臨床心理士などの専門スタッフがおこなうため安心して利用できるでしょう。
近年、核家族化が進みサポートを受けられない母親が増えています。そのため、不安や疲労などといったストレスを母親は抱えやすい状況です。
産後うつの症状があらわれたり、悩んだりする前に行政のサポートを積極的に活用してください。
産後うつに関するQ&A
ここでは、産後うつにかかわるよくある質問を3つ紹介します。
産後うつとマタニティブルーとの違いは?
産後うつは、産後3ヵ月くらいまでに起こる気分の落ち込みなどの症状です。
一方、マタニティーブルーは産後1ヵ月以内に起こる自律神経や精神状態が不安定な心理状態のことです。
産後うつは2週間以上持続するのに対し、マタニティーブルーは1〜2週間ほどで自然に改善するため治療を必要としないことが多いという違いがあります。
マタニティブルーの症状が重かったり、妊娠前・妊娠中にこころの病気を経験している方は産後うつになりやすいといわれています。
産後うつになりやすい人の特徴は?
産後うつは、出産を終えた母親は誰でも起こり得ます。とくに、以下の特徴があるかたは発症するリスクが高いとされています。
- マジメである
- 責任感が強い
- 家族関係にトラブルがある
- 孤独である
- こころの病気になったことがある
- マタニティブルーを経験したことがある
自分を追い込んだり、助けを求められなかったりすると産後うつを発症する可能性があります。
もちろん、これらの特徴がある方すべてが産後うつになるわけではありません。リスクが高いことを知っていると心構えができます。
さらに「少しおかしいかもしれない」と感じたときに、誰かに助けを求めたり医療機関を早めに受診できるでしょう。
産後うつは離婚の原因になるの?
産後うつは離婚のきっかけになり得ます。実際に、産後うつが原因で離婚を経験した方もいます。
なぜなら、産後うつにより感情のコントロールができず、夫婦間でストレスがぶつかり合うことが増えるためです。このようなことがきっかけとなり、夫婦仲が修復できずに離婚するケースがあります。
また、産後クライシスというものがあります。産後クライシスとは「夫への愛情が覚めて夫婦関係が悪化する」ことです。原因としては、赤ちゃんへの愛情が優先的になること、ホルモンバランスの変化、夫が家事をしないなどの不満があります。
さまざまな原因から、産後に離婚する場合があります。
産後うつでよく聞く「EPDS」ってなに?
EPDSとは、エジンバラ産後うつ病質問票のことであり、産後うつを早期に発見して支援できるようにするために、産後の健診(産婦健康診査事業)で使われます。
病院や助産院を退院した母子に対して心身のケアをおこない、産後も安心して子育てができるように支援するために作られました。
- うつ項目
- 育児不安項目
- うつによる睡眠障害の項目
これら3つの大項目、合計10個の小項目の回答することで評価され、合計得点0~30点であらわされます。
合計得点が9点以上もしくは、「自分を傷つけるという考えが浮かんだ」の質問が1点以上などに当てはまる場合に、家庭訪問や電話相談でフォローします。
ただし、EPSDはあくまでもスクリーニングのひとつであり、産後うつとは診断できません。症状がつらいときは、心療内科を受診することをおすすめします。
父親も産後うつになることがあるの?
父親も産後うつになる可能性があります。
ある調査では、1歳未満の子どもがいる父親が産後うつになるリスクがある割合は11.0%とされており、母親の10.8%と同じくらいとされています。
父親が産後うつになる要因は以下のとおりです。
- 夫婦関係の変化
- 育児に対する不安
- 仕事との両立
- 心身の負担
こういった原因により、父親が産後うつになることもあります。
産後のいちばん大変なときに、母親と子どもを支えられるのは父親です。さらに「父親は◯◯すべき」と思われがちです。
父親に何らかの不調をきたすと考えにくいことから発見が遅れるケースもあります。症状がつらかったり、悩んだりしたときには心療内科の医師に相談してみてください。
まとめ
産後うつは、ホルモンバランスや育児の不安、環境の変化が主な要因で発症します。
症状は、気分が落ち込んだり、感情をコントロールできなかったりします。
とくに重大な症状として自殺・他殺念慮があり、自分や赤ちゃんを傷つけてしまう可能性があります。
そのため、夫や家族のサポートが欠かせません。適切なサポートをおこなうためには、本人だけではなく、夫が産後うつの症状を理解することが大切です。
夫のサポートを受けたり、行政のサービスを活用したりしても症状が続くときには、精神科や心療内科に相談しましょう。専門家のサポートを受けられ、治療を早く開始することで症状の改善に期待できます。
ひとりで悩まずにまずは相談してみてください。
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/mentalhealth2021_L_s.pdf
P17 2021「妊産婦メンタルヘルスケアマニュアル~産後ケアへの切れ目のない支援に向けて~ 改訂版」|厚生労働省
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/mentalhealth2021_L_s.pdf
2021「妊産婦メンタルヘルスケアマニュアル~産後ケアへの切れ目のない支援に向けて~ 改訂版」|厚生労働省
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0/22-%E5%A5%B3%E6%80%A7%E3%81%AE%E5%81%A5%E5%BA%B7%E4%B8%8A%E3%81%AE%E5%95%8F%E9%A1%8C/%E7%94%A3%E8%A4%A5%E6%9C%9F%E3%81%AE%E3%82%B1%E3%82%A2/%E7%94%A3%E5%BE%8C%E3%81%86%E3%81%A4%E7%97%85#:~:text=%E7%94%A3%E5%BE%8C%E3%81%86%E3%81%A4%E7%97%85%E3%81%A8%E3%81%AF,%E3%81%BF%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%9F%E3%82%8A%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
産後うつ|MSDマニュアル
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/05/dl/s0520-6c_0008.pdf
保育所利用の仕組み|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000757461.pdf
産婦健康診査におけるエジンバラ産後うつ病質問票の活用に関する 調査研究
https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_1621.html
NHK