「電車に乗っていると胸がドキドキしてする」「会議になると、息が苦しくなる」
何の前触れもなく、息切れや動悸などの症状に襲われ心配になっていませんか?その症状があらわれている方はパニック障害を起こしている恐れがあります。
この記事では、パニック障害の症状やなりやすい人の特徴、治療法をくわしく解説します。
「もしかしたらパニック障害かもしれない」と悩むあなたが不安を解消するきっかけになれると幸いです。
パニック障害とは?|パニック発作が繰り返される病気
パ ニック障害とは「100人に1人くらいの割合で起こるとされておりパニック発作を繰り返すこころの病気」です。女性が男性のおよそ2倍多いとされ、決して珍しい病気ではありません。ここでは、パニック障害の原因や診断について紹介します。
パニック障害の原因は明らかではない
パニック障害の原因は明らかになっていません。
ただし、パニック障害の原因は疲労やストレスといわれています。強いストレスを感じると、脳の神経伝達物質(脳に情報を伝える)のうち、とくにアドレナリンが増加します。
アドレナリンの増加により、神経が異常に興奮することでその防御反応として、強い動悸や息苦しさを感じることもあるのです。
パニック障害の診断
パニック障害と診断されるのは、以 下のいずれかが1ヶ月以上にわたり繰り返し起こっている場合に、パニック障害と診断されます。
- 「パニック発作がまた起こるのではないか」という心配や不安が続いている。または発作が起こった結果、自制心や気を失ってしまうことへの心配が続いている。
- パニック発作が起こさないようにするために、普段の行動が変化する
ただし、パニック障害による症状と心筋梗塞や狭心症をはじめメニエル病、喘息、甲状腺機能亢進症など重篤かつ、からだの病気が原因で起こる症状は似ています。
そのため、心電図や採血検査、CT検査などをおこないからだの病気がないことを確認したうえで、パニック障害の治療が進められます。
パニック障害の症状3つ
パニック障害の主な症状は以下の3つです。
- パニック発作
- 予期不安
- 広場恐怖症
それぞれの症状についてくわしくみていきましょう。
パニック発作
パ ニック発作とは、「極めて強い苦痛や不安、恐怖などが突然あらわれて、短時間で治まる発作のこと」です。
具体的には、パニック発作では以下のようなこころ、からだの症状が4つ以上あらわれます。
● 胸の痛み、もしくは不快感
● 息苦しさ ● めまいやふらつき、または気が遠くなるような感じがする ● 死ぬことへの恐怖 ● 正気を失うこと、または自制を失うかもしれないことへの恐怖 ● 非現実感や違和感、外界にいないように感じること ● からだが熱い感覚、もしくは悪寒 ● 吐き気や腹痛、または下痢 ● 手足のしびれ、ピリピリ感 ● 胸がドキドキしたり、脈が速くなったりする ● 息切れ、呼吸困難 ● (運動したり暑くないが)発汗 ● 手のふるえ |
出典元パニック障害|厚生労働省
通常は、パニック発作は10分以内に症状がきつくなり、数分で消失します。
胸の痛みや息苦しさなどのパニック発作があらわれて「自分が死ぬのではないか」「自分ではどうしようもできない」と感じて病院に行ったり、救急車を呼んだりします。
ただし、医師が診察をするときには、パニック発作が落ちついているケースが多いです。
検査値には異常がみられないため「異常なし」と判断され、パニック障害と診断されないケースも少なくありません。パニック障害と診断されるまでには、時間がかかる場合があります。
パニック障害の症状に悩む方は、症状があらわれているにもかかわらず治療が受けられないため、悩んだり不安を感じたりする方もいるでしょう。
予期不安
予 期不安とは、パニック発作が起こったときの苦しさや恐怖から「またパニック発作が起こったらどうしよう」と心配になることです。
パニック発作を繰り返すことで、予期不安が強くなり、さらに症状が悪化する恐れがあります。この予期不安があるため、日常生活に支障をきたす恐れがあります。
広場恐怖症
広場恐怖症とは、「パニック発作を経験した方が特定の場所や状況を避けるようになること」です。
具体的には、パニック障害の方は発作を恐れるため以下のような場所や状況を避けます。
- 電車やバス
- 駐車場や市場などの広い空間
- 会議室や劇場、店などの閉鎖的な空間
- 人混みや列に並ぶこと
- 自宅に外でひとりでいること
「パニック発作が起こったときに逃げ出せない」と感じるため避けるようになります。
このような場所でパニック発作が出ると考えると、ひとりで外出できなくなり、次第に学校や会社に行けなくなります。
パニック障害になりやすい人の特徴
ここでは、パニック障害になりやすい人の特徴を紹介します。
- 真面目な人
- 感受性が高い人
- こだわりが強い人
- まわりに気遣いができる人
- 緊張しやすい人
- 繊細な人
それぞれの特徴を知って、日々の生活を改めたり考え方を見直したりするきっかけとしてください。
1.マジメな人
マジメな方はストレスをパニック障害になりやすいです。
難しいことを無理して乗り越えようとしたり、つらいと感じたときにも誰にも相談できずに落ち込んだりするためです。
マジメであることでストレスを感じやすいため「まあこれくらいでいいや」「なんとかなるよ」と考えると、気持ちが楽になるでしょう。
2.感受性が高い人
感受性が高い方は、家族や友人、会社の同僚などからの感情の影響を受けやすいため、パニック障害になりやすいです。
イライラしたり悲しんだりなどのネガティブな感情になることが多く、不安を感じやすいためです。
不安な気持ちは時間が経つと少しずつ和らぐことを知っておけば、うまく感情をコントロールできるでしょう。
3.こだわりが強い人
こだわりが強い方は、自分のこだわりがあり「こうでなければならない」「◯◯しないといけない」などと考え、思い通りにならないと強い不安を感じます。
この不安がきっかけでパニック障害を起こす可能性があります。
こだわりが強い方はストレスを感じやすいため、散歩したり音楽を聞いたりなど、ストレスをうまく発散できる方法を持っておくことが大切です。
4.まわりに気遣いができる人
周りに気遣いができる方もパニック障害になりやすいです。
周りの人に気遣うため、自分のことを後回しにしがちであり、気づかないうちにストレスが溜まっていたり我慢したりするためです。
周りに気遣うことも大切ですが、たまには自分に目を向けてこころとからだを休めましょう。
5.緊張しやすい人
緊張しやすい方はネガティブな結果を想像することに慣れているため、パニック障害になりやすいです。
緊張する理由として「プレゼンで失敗するのではないか」「ピアノの発表会がうまくいかなかったらどうしよう」と、これから起こる未来に不安やストレスを感じます。
こういった気分が落ち込むことがパニック障害の原因になるため注意してください。
6.繊細な人
繊細な方は、ほかの人が気に留めないようなことにも気づくことが多いのではないでしょうか。
ただし、気づきすぎて疲れやすい特徴もあります。また、家族や友人、会社の同僚などからの何気ない一言を深刻に受け止め、傷つきます。
普段の生活からストレスを溜めないようにすることが大切です。
パニック障害の治療
パニック障害の主な治療は「薬物療法」と「認知行動療法」です。治療の目的は、パニック発作があらわれる回数を減らすことや症状を軽くすることです。ここでは、それぞれの治療法をくわしく解説します。
薬物療法
パニック障害の薬物療法では以下の2種類が効果があるとされています。
項目 | 薬剤名 |
抗うつ薬
|
・三環系抗うつ薬(TCA)
・モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI) ・選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI) ・セロトニン調節薬 ・セロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI) |
抗 不安薬 | ベンゾジアゼピン系薬剤 |
パニック障害の薬物療法では、抗不安薬と抗不安薬を併用しながら治療を進めます。まず、抗うつ薬で使用するのは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)です。
というのも、SSRIやSNRIは、ほかの抗うつ薬と同じ効果が得られ、一般的に副作用が少ないとされているためです。
たとえば、眠気を感じる可能性は低く、依存性もありません。
一般的に、抗うつ薬は効果があらわれるまで2〜4週間ほどかかるとされています。すぐに症状を軽くしたいパニック障害の方にとっては、この2〜4週間は長く感じるでしょう。
抗うつ薬の効果があらわれ始めたら、抗不安薬を少しずつ減らしやがて中止します。急に中止すると、離脱症状といって頭痛やめまい、吐き気をはじめ、イライラしたり眠れなくなったりなどします。
抗不安薬を中止したあとも、パニック障害による不安が強いときには臨時で使うこともあります。
また、薬物療法をおこなうことでパニック発作が起こらなくなったり、発作の回数が減ったりしますが、服薬を中止するとパニック発作を再発することが多いため、長期間、服用を続けなければならないケースもあります。
さらに、抗うつ薬と抗不安薬は、いずれも副作用があらわれる恐れがあるため主治医に相談しながら治療を続けましょう。
認知行動療法
厚 生労働省が公開したパニック障害の方を対象とした認知行動療法は、以下の11個の順での実施が望ましいとされています。
- パニック障害について教育する
- 認知行動モデルを作成する
- 安全行動と注意について検討する
- 死をイメージする出来事を再構成する
- からだへの注意を減らし、注意に柔軟に対応する注意トレーニング
- 行動実験を通して死につながらないことに気づく
- 身体感覚イメージと結びつく記憶を書き直す
- 出来事の前後で繰り返しやることを検討する
- 最悪な事態に対する他者の解釈を検討する
- 残っている信念・想定を検討する
- 再発を予防する
出典元パニック障害(パニック症)の 認知行動療法マニュアル(治療者用)|厚生労働省
認知行動療法は、まずはパニック障害の原因やなりやすさなどを知ることから始めます。
というのも、パニック障害になった始めのころは、病気を受け入れられない、薬には頼りたくないなど考え治療を進めにくいことがあるためです。
パニック障害の方は、出来事を重く、そして悪いほうに考える傾向にあるといわれており、認知行動療法を通して、この考え方を少しずつ改善していくのです。
ただし、認知行動療法が進む順序や期間は、パニック障害の方の症状や思いにより変わります。
さらに、気をつけて生活しなければ認知行動療法の効果が期待できないかもしれません。具体的には以下のことに気をつけてください。
- カフェインを摂取しすぎない(コーヒーやチョコレート、コーラなど)
- タバコを止める
- 暴飲暴食を控える
- 夜ふかしを控える
日ごろの管理を怠らないことが大切です。パニック障害の方それぞれで症状や治療の方法は異なるため、医師や臨床心理士と相談しながら進めていきましょう。
パニック障害に関するQ&A
ここでは、パニック障害に関するQ&Aを紹介します。
- パニック障害の落ち着かせ方は?
- パニック発作の兆候は?
- パニック障害の人にいってはいけない言葉はなに?
パニック障害の疑問を解決して、日常生活で取り入れましょう。
パニック障害の落ち着かせ方は?
パニック障害の症状があらわれたときには、深呼吸をしたり、別のことを考えたりして落ち着かせることが大切です。
ほかにも、前かがみの姿勢になってもらうことが欠かせません。前かがみになると、腹式呼吸がしやすくなるためです。
また、パニック発作が起こりどんなに苦しくても死ぬことはないため「命の危険はない。時間が経てば自然に治る」と自分に言い聞かせてみましょう。
パニック障害の症状が落ち着く方法は、それぞれで異なるため主治医に相談してあなたに合った対処法を知っておきましょう。
パニック発作の兆候は?
パニック発作は何の前触れもなく、動悸や息苦しさを感じます。突然、急激に症状があらわれるのがパニック発作の特徴です。
そのため、パニック発作の兆候はないといえるかもしれません。
ですが、パニック発作を起こした場所や似たような場に行くと「症状が起こるかもしれない」と感じることもあります。その場にいることで症状が悪化する恐れがあるため、治療が進むまでは無理をしないようにしましょう。
パニック障害の人にいってはいけない言葉はなに?
パニック障害の方にいってはいけない言葉があります。
なぜなら、パニック障害の方にかけた言葉がきっかけで症状が悪化する可能性があるためです。具体的には、以下のような言葉を控えましょう。
- 「悩んでるフリしてるだけでしょ?」
- 「また発作が出たの?」
- 「気持ちの問題じゃないの?」
- 「もっと落ち着いたら?」
- 「これもできないの?」
- 「これから仕事はどうするつもりなの?」
- 「いつまで学校を休むの?」
パニック障害の方は、からだに異常はなく、症状が数分で落ち着くため、なかには理解してもらえないことがあります。周りの人から理解されにくいこともパニック障害の方の悩みのひとつです。
さらに、症状がつらくなりひとりで外出できなくなると、自分が情けなくなり自己評価がますます低くなりうつ状態になる可能性があります。
以下のような言葉をかけると、パニック障害の方が安心できるかもしれません。
- 「パニック発作が起こると怖いよね」
- 「同じ立場だったら、同じくらい不安な気持ちになるよ」
- 「大変な思いをしているんだね」
- 「いつも味方だからね」
- 「もうすぐ落ち着くからね」
このような言葉により、パニック障害の方は不安が強くなるかもしれません。相手を思いやる声掛けが大切です。
パニック障害の症状が軽くなる食べ物ってなに?
パニック障害の症状が軽くなる食べ物は明らかにされていません。
ただし、以下の栄養素が入っている食べ物を食べると症状が軽くなる可能性があるといわれています。
- ビタミンC
- カルシウム
- トリプトファン
神経を落ち着かせたり、ストレスに対処しやすくなったりするとされています。また、カフェインを多量に摂取すると、パニック発作が起こるかもしれません。
そのため、コーヒーやお茶、コーラなどは控えるようにしてください。
まとめ
パニック障害の方は、突然動悸や息切れなどの症状があらわれるため、不安を感じたり心配したりしています。
ただし、適切な治療を受けると、そのつらい症状を軽減できる可能性があります。精神科や心療内科を受診すると、薬物療法や認知行動療法などを受けられ、悩みを解決できるでしょう。
そのため、ひとりで悩まずにまずは相談してくださいね。
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パニック障害 e-ヘルスネット|厚生労働省
パニック障害|厚生労働省
パニック障害|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/youth/stress/know/know_
こころをメンテしよう 不安障害|厚生労働省
http://hikumano.umin.ac.jp/PD_guideline.pdf
パニック障害の治療ガイドライン|厚生労働省
パニック障害(パニック症)の 認知行動療法マニュアル(治療者用)|厚生労働省
監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医)