昨今、「風呂キャン(風呂キャンセル界隈)」という言葉が、SNS等でトレンド入りしているようです。「風呂キャンセル」とは「お風呂に入る予定だったけれども、面倒で入るのを止める」ということを指す言葉のようです。これに関しては、様々な角度からの意見や考察が可能でしょうが、あくまでも私見としまして、精神科・心療内科(メンタルヘルス)の観点から、記載させて頂きます。
女性の場合は特に「寝る前にお風呂にゆっくり入って、身体や髪の毛を綺麗にしてから眠りたい」と思われるのは至極当然でしょう。それにも関わらず、「お風呂に入るつもりだったけれども、やはり止めよう」というのは、一般的にどのような場合だと思われますか?
女性で働かれている方(家事従事者含め)がそう思われる時は、一言で表現をするならば、「お風呂に入る気力(エネルギー)がない時」だと言えるでしょう。仕事が終わって帰宅して、あるいは、家事などが一段落して、「さあ、お風呂に入ろう」とする時には、心身共にクタクタになってしまっている状態、あるいは、エネルギーが枯渇してしまっている状態であると考えられます。
女性の場合、特に髪の毛をお風呂に入る都度、きちんと洗われる方も少なくありません。そうすると、髪の毛が長い場合は眠る前までに乾かすことも、よりお風呂に入るハードルを上げてしまっている可能性も捨てきれません。
実際、精神科・心療内科を来院される来院さえる患者様で、初診の時点で、「お風呂だけは毎日欠かさず入っています」という方は、かなりの少数派であると言えるでしょう。逆に言ってしまえば、「お風呂に毎日入れるくらいの元気さ(気力)があれば、わざわざ精神科・心療内科に来院しようなんて思いません」と思われるのではないでしょうか。そのくらい、お風呂に苦なく毎日入れるか否かは、ご自身で簡単にわかる心身(心と身体)のコンディションのバロメータだとも言えるでしょう。
女性の場合、「寝る前に最低でもお化粧は落として寝る」という方は非常に多いです。これは、お風呂に入らずとも、洗面所で出来る作業です。ただし、「お化粧はお風呂に入った時にお風呂場で一緒に落とすもの」という考え(マインドセット)を持たれている方は、「お化粧」と「お風呂」という行為が別々のものと思えず、両方できなくなってしまうということも起こり得ます。もし、別個に捉えている方で、「風呂キャン」のみならず、「メイク落としキャンセル」までされたとするならば、事態は相当深刻です。恐らく、その時点で、睡眠や食事も充分に取れていない可能性もあるでしょう。「抑うつ状態」に陥っていたとしても不思議ではありません【➡参考:心の疲労度自己診断チェックテスト】。
…さて、今までお話をさせて頂いた方向とはまた別の観点でも「風呂キャン」は起こり得ます。それは、「自分自身に価値観を感じられない場合」です。これはある意味では、気力やエネルギー不足よりも深刻なことがあります。
「お風呂に入って、その日一日頑張った自分を癒し、清潔に整える」ことを、いわば「その日頑張った自分へのご褒美(報酬)」だと考える方がいらっしゃられます。もし、この考え方(認知)でいると、「その日頑張れなかった自分=お風呂に入る資格がない」という極論に至ってしまうことすらあります。そうなってしまうと、一種の「セルフ・ネグレクト」が起きているとも言えるでしょう【➡参考:セルフ・ネグレクトチェックテスト】。
人がお風呂に入って自分を癒すのは、日本国憲法第25条「すべての国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する(生存権)」とも一致します。また、病気療養のために、長期に渡り温泉に逗留するという「湯治場」というものが、江戸時代以前から脈々と現代にまで受け継がれています。そのくらい、お風呂に入ることは、日本人の心身を健全・健康に保つためにも欠かせない行為であるのです。
当院では、うつ病をはじめ、
不眠症(睡眠障害)、躁うつ病、適応障害、不安症、
自律神経失調症、パニック症、摂食障害(過食症)
月経前症候群(PMS)、統合失調症、強迫性障害、
大人の発達障害(ADHD、自閉スペクトラム症)、
過敏性腸症候群、更年期障害、心身症など、
皆さまの抱えるこころのお悩みに対して、
心身両面からの治療とサポートを行っております。
また当院では、診察と一緒に、専門の心理士(臨床心理士・公認心理師)資格を持ったカウンセラーによるカウンセリング(心理療法)も行っております。カウンセリングをご希望される患者様は、診察時に医師にご相談下さい。
Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)
監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医・内科医)
参考引用文献:沢口千夏著『ちょっとしたことでうまくいく発達障害の女性が上手に生きるための本』