「寝ていたら突然身体が動かなくなったんです。部屋の様子がよく見えて、誰かに上から押さえられて、とても息苦しかったです」。心霊現象などとしてもよく語られる、金縛りの体験談です。
金縛り体験の主な症状としては、以下のようなもの挙げられます。
✓身体が動かない
✓声が出ない
✓恐怖感
✓何かが乗っているような感じ
✓ヒト、物の気配がする
✓幻覚、幻聴
✓誰かに触られているような感じ
…実は、金縛りの奇妙な体験は、睡眠中の脳の働きで起きるものなのです。私たちが眠り始めるとまず、ノンレム睡眠が訪れます。その後、身体は休んでいるのに、脳は覚醒状態に近いレム睡眠がやってきます。ストレスが重なったり不規則な睡眠サイクルを繰り返したりしていると、この順番が崩れ、眠り始めにレム睡眠がやってくることがあります。この時のレム睡眠時に経験する「睡眠麻痺」が金縛りの正体です。特に、「ナルコレプシー」の患者様は、この入眠時レム睡眠の症状によって、金縛りが頻繁に起こります。
金縛り中に身体が動かなくなるのは、レム睡眠中は、筋肉に動きの指令が出せなくなるからです。因みに、この筋肉を弛緩させる機能が不十分で、手足をばたつかせるなど、夢に沿った行動をしてしまう状態を「レム睡眠行動障害」と言います。さらに、レム睡眠中は、呼吸が不規則になります。これは、呼吸を速める交感神経と、呼吸を遅くする副交感神経の小競り合いが起きているためだと言います。
また、金縛りの体験者が見ているものは、全て自分の脳が作りだしたイメージ、つまり「夢」です。但し、金縛り中は、通常のレム睡眠時とりも意識がはっきりしており、夢とは思えないほど鮮明な体験(=入眠時幻覚)となることが多いと言います。入眠時幻覚は、脳の視覚野を含む大脳皮質の活性化によって起こります。一方、身体が動かない症状は、脊髄の前角細胞が抑制され、筋肉が動かせなくなることで生じます。これが“金縛りのメカニズム”です。
以上のように、金縛りは決して原因不明の現象ではありません。もし金縛りになったら、レム睡眠に入ったのだと理解しましょう。怖がる必要はないのです。
奇妙な夢はレム睡眠中に見る??
「空を飛ぶ」などの奇妙な夢、喜怒哀楽や不安といった感情を伴う夢の多くは、レム睡眠中に見ることが分かっています。レム睡眠中の脳では、理性的な判断に関わる「前頭前野」の活動の仕方が変化する一方、視覚イメージを生み出す「視覚連合野」や、感情を司る「扁桃体」が活発に活動しています。これらが、レム睡眠中の夢と関係していると考えられます。但し、ノンレム睡眠中にも夢(ぼやっとした抽象的な夢)を見ることがあります。
記憶の形成に重要な役割を果たす「海馬」も、レム睡眠中に活発に活動しています。ノンレム睡眠とは異なるメかニズムによって、レム睡眠もまた、一時的な記憶の固定に関わっているとされています。
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監修者:
新宿ペリカンこころクリニック
院長 佐々木 裕人
資格等:精神保健指定医、精神科指導医・専門医
所属学会:日本精神神経学会
参考引用文献:Newton別冊『睡眠のサイエンス』