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【医師監修】「空気」は読まない側が悪いの!?【ASD】

ASD(自閉スペクトラム症の人たちが、人とのコミュニケーションを難しいと感じるのには、日本特有の事情も関係しているのかもしれません。日本人同士の会話では、「空気を読む」ことが当たり前とされています。一方、ASDの人たちは「空気を読む」のは非常に苦手です。

 

そもそも「空気を読む」というのは、どういうことでしょうか。

 

まず「非言語的なコミュニケーション」から、相手の意図を察するという意味があります。前後の文脈だとか、話している相手の表情や声のトーン、言葉の選び方やニュアンス、ボディランゲージなどを解釈することです。ですから、非言語的なコミュニケーションが苦手な人にとって、「空気を読む」のが当たり前の社会で生きていくのは、辛いことでしょう。

 

ただ、問題はそれだけではないと思われます。「空気を読む」という言葉には、メッセージを「正しく解釈する責任」が受け取る側にあるという暗黙の了解を感じます。

メッセージ伝達の責任は、誰にある?

 

外国の人が日本人について、こんな不満を持ちがちだと言われています。「嫌ならはっきりと言うべきだよ。ノーならノーと、はっきり言ってくれなければ、分からないじゃないか!」

 

このように、彼(外国の人)は、ノー」だと考えている側に「ノーと表現する責任」があると考えている訳です。まさか、受け取る側に「ノーと解釈する責任」が委ねられているとは思ってもいないわけです。

 

海外赴任をしたASDの方が、そのまま日本に帰らず、現地で働くことを選択する、ということも珍しいことではないそうです。ASDの人にとっては、情報伝達の責任が発信側にある国の方が暮らしやすいのでしょう。

 

そんな日本社会で、ASDの人たちが生きていく苦労は並大抵のものではありません。京都府立大学文学部准教授でASDの診断を受けている横道誠氏は、次のように言っています。

 

 

『ちょっとでも誰かと会話をするとすごく疲れちゃうんですよ。定型発達(=発達障害ではない多数派の人々の発達を表す言葉)の人にとっては当たり前のグラデーションのようなものが、私たちには分からないんです』

 

 

その大変さを、横道誠氏は日本語がすでに「第1外国語」だと感じる』ほどであると表現されています。ASDの人が誰かとコミュニケーションをとろうとする時、常にこのようなハードルを感じていられる可能性があるのです。しかし、このハードルは、私たち一人ひとりが、メッセージを明確に発信するように意識することで、かなり下げることが出来ます。このことは是非、覚えておきたいところです。

 

人の目を見る頻度が低い?!

 

ASDの人たちは、周囲の人たちの様子にあまり注意を向けない傾向があります。精神科医の岩波明氏の研究グループでは、次のような実験結果を得たそうです。

 

ASDとADHDの人たちに動画を見てもらい、「アイトラッカー」という機器を使って、視線の動きを追いました。すると、ASDの人たちの場合、明らかに人の姿や人の目を見る頻度が低かったのです。

 

このような視点の置き方の違いがASDの人たちの言語獲得や、そこから派生するコミュニケーションにおける特徴を生んでいるのかもしれません。

 

 

当院(新宿ペリカンこころクリニック)では、ご希望の患者様に、ウェクスラー成人知能検査(WAIS)を施行することが可能な医療機関となっております。

 

ご自身の能力の凸凹の可能性が気になられる患者様、とりわけ発達障害(ASDやADHDの可能性を危惧されている患者様は、御診察の際に、その旨を当院医師にお申し出頂けましたら幸いです。

 

 

 

Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)

監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医・内科医)

参考引用文献:黒坂真由子著発達障害大全