発達障害は今や多くの人に知られるようになりました。その中には、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)等があります。これら発達障害の人たちに、ためこみ行動がみられることがあります。それぞれの障害によって「ためこみ」の形が異なるため、以下に説明させて頂きます。
自閉スペクトラム症(ASD)のためこみ
自閉スペクトラム症(ASD)では、主に対人関係やコミュニケーション等で、暗黙の社会的ルールを理解するのが苦手であったり、特有の表現を用いたりするため、意思疎通がスムーズに営みにくく、臨機応変に対応していくことに困難さが見られます。また、趣味や行動にこだわりが見られることも特徴的です。また、情報処理に関する注意の向け方やモノの分類、記憶、意思決定などに特徴が見られます。
通常、モノをためこんでいくと、どこに何があるのか分からないくらいグチャグチャに乱れて置かれることが多いことでしょう。しかし、自閉スペクトラム症の人は、モノを積み重ねてためこみやすい傾向が観察されます。ファイルにまとめたり、引き出しに片づけると、視野の外に置かれ、見てない状態になり、どこに何があるのか分からなくなることが影響しているようです。
例えば、通常は書類が乱雑になっている状態で「あの書類はどこ?」と訊いても、時間がかかり中々見つけられませんが、自閉スペクトラム症の人はその人なりに積み重ねていますから、すぐに探し物が出てきます。周囲から見ると乱雑なようですが、その人にとっては自分にとって合った対処法だと言えるでしょう。
注意欠如・多動症(ADHD)のためこみ
注意欠如・多動症(ADHD)は、不注意、多動性および衝動性の症状が年齢不相応に目立つ障害です。ためこみ症の約28%に注意欠如・多動症が併存しており、その中でも「多動性および衝動性」よりも「不注意」の症状が優位な状態が多いことが報告されています。課題に集中することが難しいため、注意がすぐに逸れてしまいます。ですから、長時間に及ぶ片付けなどは、非常に取り組みにくくなるのです。
集中力が続きにくいということは、たとえ片付けをしていても、途中で他のことが気になり出すと別のことを始めてしまい、整理整頓された生活が送りにくいということに繋がります。
また、一つひとつのことに視点が向きやすいので、「全体をつかむ」ことが困難になりがちです。1枚の衣類や書類、写真などに焦点が向けられやすく、目の前のことに焦点が当たり易いため、部屋全体を見渡しての片付けなどは非常に不得手でしょう。注意欠如・多動症の人がためこみがちになるのは、その特性を考えれば、当然のことかもしれません。
➡自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症の人たちには、以下のような傾向が指摘されています。
1.優先順位が中々つけられない:興味の関心の対象が多く、優先順位をつけたり、決断をしたりするのが難しいので、そのことを考えないようにしたり、避けたり、そのままにしてしまいがちです。手を付けないでそのままで置いておくため、結果的に大量のモノを保存してしまうことになります。
2.常に可能性を考えがち:「そのときがきたら」という可能性が頭をかすめ、モノを保管し続けるため、ためこみ状態に繋がりやすくなります。
3.規則や特定の方法に従って物事を進めるのが苦手:一般的に(当たり前のこととして)用いられている手順や方法はが、なぜそのように行われるかを理解しないと、家族や周囲の人たちから求められているように行動しにくい場合があります。そのため、郵便物や洗濯物などを処理して毎日の生活をスムーズに送ることが難しくなります。
4.見えないモノを忘れてしまうのでは、という不安がある:目の前に見えなくなると忘れてしまうかもしれない、と不安になり、見える場所に置いておく傾向があります。自閉スペクトラム症の人がモノを積み重ねて置いていくのに対し、注意欠如・多動症では、モノを平らに広げて置いていく傾向が観察されます。大量になると、ともに床や部屋がいっぱいになります。
5.経験を思い出させてくれるモノをとっておく:どこかに出かけた際の入場券や、冊子、お土産など、経験したことを思い出させてくれるアイテムをいつまでも保管し続ける傾向があります。
6.モノに対して感情的な愛着を抱きやすい:所有するモノの中には、その人にとって特別な思い出や愛着を抱いているモノがあります。一つひとつのモノに対する鮮明な記憶もあり、それらを象徴するモノを処分することは、自分の一部を捨ててしまうように感じ、手放すことがとても難しいことがあります。
7.注意がそれやすいため、モノを置いたままになる:片付けようと思っても他のことに注意がそれてしまうと、昨日の夕食で使った食器がリビングにそのままになっている、ソファの上に読みかけの雑誌が何冊も置かれたままになっている、などといったことが起こります。
8.毎日行う家事などをためやすい:時間管理が苦手で、関心のないことは目的が明確でないと行わない傾向があります。例えば毎晩、夕食後に食器を洗ってシンクを綺麗にしておく、といったことが習慣化できていないと、モノが散らかり、たまっていきます。
当院(新宿ペリカンこころクリニック)では、ご希望の患者様に、ウェクスラー成人知能検査(WAIS)を施行することが可能な医療機関となっております。
ご自身の能力の凸凹の可能性が気になられる患者様、とりわけ発達障害(ADHDやASD)の可能性を危惧されている患者様は、御診察の際に、その旨を当院医師にお申し出頂けましたら幸いです。
Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)
監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医・内科医)
引用参考文献:五十嵐透子著『片付けられないのは「ためこみ症」のせいだった!?』