発達障害の特性を持っている人の中には、職場内で、あるいは得意先への挨拶の際に、「愛想がない」と言われてしまうことが間々あります。その理由はいくつか考えられますが、ASD(自閉スペクトラム症)傾向の人の場合は、「表情」と「口調」が主な理由と考えられます。具体的には、笑みを浮かべることが出来なかったり、言動が短くぶっきらぼうであったり、あるいは無意識の内に詰問のような口調になってしまう場合があるからです。作り笑顔ができない人もいれば、本当に面白くても上手く笑えない人もいます。作り笑顔をする意味が分からない、というタイプの人もいます。
笑顔には相手を安心させ、その心を和らげる効果があると言われています。日本においてビジネスで愛想笑いが多用されるようになったのも、恐らくはそうした効果をねらってのことだったのでしょう。
しかし、誰もがそれをするようになれば、笑顔は一種の礼儀として義務化されていきます。商談の場で笑顔が基本になってくると、今度は平常時の顔がブスっとしていると思われ、マイナスの印象を与えてしまうことになります。日本における現状の「営業スマイル」はもはや、そうしたあいさつのような機能を持つものになっているといっても過言ではないのです。
ADHDの人の場合は、実は比較的愛想のよい人が多いようです。しかし、仕事で緊張が強かったり、忙しくて余裕がなくなったりすると、愛想笑いを「忘れて」しまい、無表情で相手に怖い印象を与えてしまう場合があります。
総じて、愛想笑い・営業スマイルといった文化は、発達障害、特にASD傾向の人と相性の悪い文化であると言えるのです。
鏡で練習をしてみましょう
愛想笑いの問題は、「必要ならできる」というタイプの人なら問題ないかと思われるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。何故なら、この時にASDやADHD傾向の人の「マルチタスクが苦手」という特性が影響してくるからです。「笑わなくては」と必死で表情を作ろうとするため、肝心の会話ができなくなったり、相手の話が頭に入ってこなかったりしてしまいます。
ここでは、笑みを浮かべることが苦手な人、会話をしながら笑顔を持続するのが難しい人、それぞれの問題に分けて対策を考えていきます。
笑みを浮かべることが苦手な人は、鏡を見て練習してみることが基本となります。コツとしては、「相手の額あたりを見る」「口の端を上げる」の2つになります。漫画でも漫才でも良いので笑えるような記憶をストックしておいて、それを思い出すようにしてもよいでしょう。
笑顔が上手く作れないと悩む人もいますが、まずは「口角がやや上向き」程度の表情ができてば十分合格です。スマイルマークのように、人は両側の口角があがった線を自動的に「笑顔」と認識します。別にいつも笑っている訳ではないのに穏やかな印象を与えるタイプの人がいます。これは口角が上がり気味であったり笑いジワがあったりと、笑顔を連想させる顔のパーツがこうした印象を生んでいるのです。まずは、口元(口角)を意識することから始めてみましょう。
笑顔自体はできるものの、会話をしながら笑顔を作ったり、笑顔を作り続けたりすることが出来ない人は、「ポイントを絞る」のがコツです。どこがポイントなのかと言いますと、最初と最後です。
例えば、始めの挨拶、出来れば名刺交換までは意識して笑顔を作るようにします。仕事の話が始まったら、表情のことはそこまで考えなくても大丈夫です。無理して笑わなくても良いですし、逆に無理に笑いを押し殺す必要もありません。この時は寧ろ、仕事の話の方に集中しましょう。
話がまとまり、最後に「ありがとうございました」と挨拶をする時に、もう一度笑顔を作ります。最後に笑顔で終わるだけでも、相手に与える印象はかなり違ってきます。
これは、心理学的にも検証されていることで、人は相手に対して印象(イメージ)を形成をする際に、最初に受けた印象と、最後の印象を重視して覚えているという記憶のメカニズムにも関係しています。最初の印象が影響を与えることを「初頭効果」と呼び、最後の印象が残ることを「新近効果」と呼んでいます。
このように、まずは最初と最後だけを意識するのであれば、大事な話に集中出来なくなることもありません。あいさつを練習する時などは、一緒に笑顔を作るプロセスも考えてみることをお勧めします。
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当院(新宿ペリカンこころクリニック)では、ご希望の患者様に、ウェクスラー成人知能検査(WAIS)を施行することが可能な医療機関となっております。
ご自身の能力の凸凹の可能性が気になられる患者様、とりわけ発達障害(ASDやADHD)の可能性を危惧されている患者様は、御診察の際に、その旨を当院医師にお申し出頂けましたら幸いです。
また当院では、診察と一緒に、専門の心理士(臨床心理士・公認心理師)資格を持ったカウンセラーによるカウンセリング(心理療法)も行っております。カウンセリングをご希望される患者様は、診察時に医師にご相談下さい。
Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)
監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医・内科医)
参考引用文献:林寧哲監修『ちょっとしたことでうまくいく発達障害の人が会社の人間関係で困らないための本』