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【医師監修】境界知能と軽度知的障害について詳しく解説!

以前、同コラムでもご紹介させて頂きましたように、発達障害には、知的障害を伴うケースと伴わないケースがあります。発達障害と知的障害の違いを、児童精神科医・宮口幸治氏は次のように表現されています。

 

 

『発達障害というのは発達に凸凹があるイメージですよね。いろいろな能力の中に、ほかの能力と比べて著しく高いものや低いものがある。それに対して知的障害は全体的に低いというイメージです。発達がゆっくりしていると考えるといいかもしれません。』

 

 

そして宮口氏は、発達障害に知的障害が伴う場合、まず知的障害に対応すべきだと主張されています。それは、社会生活を送る上で、知的障害から生じる困難の方が大きいからです。

 

福祉のボーダーライン

 

さらに宮口氏は、知的障害以上に、「気づかれない境界知能と軽度知的障害」が問題だと言います。それは何故か、宮口氏が指摘されているポイントを確認していきます。

 

知的障害境界知能軽度知的障害という3つの言葉が出てきましたが、それぞれの言葉が示すIQ(知能指数)の水準は、概ね次の通りです。

 

◎ 知的障害:IQ70未満

◎ 軽度知的障害:IQ50~70(知的障害の枠内)

◎ 境界知能:IQ70~85

 

知的障害の中でもIQが高めなのが、軽度知的障害。そして、軽度知的障害よりIQが高いのが、境界知能、ということです。

 

そうは言っても、IQの平均は「100」ですので、いずれにしても、社会生活を送る上で困難を感じられることは多々あります。しかし、一見した感じや普段の様子は、平均的な人と余り変わりません。そのために、ご本人が抱えている困難が目立ちにくく、周囲の人もご本人さえも、知能の問題に気づきにくいのです。

 

ここに福祉の問題が関係してきます。知能検査でIQが低いことが分かった場合、療育手帳をとって、福祉のサービスを受けることが可能です。但し、その条件は、大抵の場合、①「IQ70未満」(都道府県によって多少の違いがあります)。それに加えて、②「日常生活に困難」があることです。東京都の療育手帳(「愛の手帳」)はこちらのようになっています➡当該HP:「愛の手帳について

 

ですから、境界知能の場合、そもそも福祉サービスは受けられません。「日常生活に困難」があっても受けられないことが少なくありません。IQが70未満の軽度知的障害ならば、福祉サービスを受けられる可能性はあります。但し、先述のように、知能の問題に気付かれにくく、放置されることもあります。

 

知的障害にも濃淡がある

 

知的障害にも濃淡があり、グラデーション状になっています。「知的障害の人と、そうでない人」という二項対立的なものではないということです。

 

境界知能や軽度知的障害の人たちの多くは、生きづらさを抱えながらも、その生きづらさを周りの人たちに分かってもらえずに苦労しています。根本的な問題が知能にあるという可能性に、周囲は勿論、本人も中々気づきません。そうして支援の網からこぼれていきます。

 

仕事が上手くいかなかったり、人間関係で躓いたりした時に、知能検査を受けに行く人は殆どいません。「どうしても勉強ができない」「職場で怒られてばかりいる」「雑談についていけない」…等、そのような悩みを自分のせいにされて、心を病んでしまうということも決して少なくはないことを、頭の片隅に留めておいて頂けましたら幸いです。

 

 

Presented by.新宿ペリカンこころクリニック

監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医・内科医)

参考引用文献:黒坂真由子著『発達障害大全』・宮口幸治著ケーキの切れない非行少年たち