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『スリープテック』って何ですか?~眠りを変える最新技術~

私たちが健やかに生きるためには、適切な睡眠が欠かせません。睡眠が不足すると心身に悪影響が生じます。例えば、睡眠時間が短い人は、大人も子どもも、肥満になりやすいと言われています。肥満が進むと、糖尿病(2型糖尿病)や高血圧などの生活習慣病の発症や悪化をもたらす可能性が高まり、最悪の場合は命に危険が及ぶこともあります。

 

 

最近では、がんや認知症の発症も睡眠不足に関係していることが分かってきています。睡眠中に脳内で「アミロイドβ(ベータ)」という老廃物が除去されるのですが、短時間しか眠っていない人はこれらの老廃物の除去が不十分になって蓄積されていき、アルツハイマー病などの脳の病気に繋がっていく可能性があります。また精神面では、睡眠不足によってうつ病にかかりやすくなることもあります。このように「睡眠不足は万病のもと」と言っても過言ではないのです。

 

 

このように睡眠不足が心身に悪影響をもたらすことは、既に多くの人が知識や経験から知っていることです。そのため、私たちは眠れないと「身体によくない影響があるのでは…」と不安になってしまうことがあります。

 

 

睡眠障害について長年研究に携わっている、国立精神・神経医療センターの栗山健一医師も「人が眠れないことに不安を感じるのは、睡眠そのものではなく、健康への不安によるものであることが少なくありません。眠れないと身体の不調は生じたり、病気になってしまうのではないかと考える人や、命の危険にさらされるのではないかと思い詰めてしまう人もいます」と語っています。

 

 

新型コロナウィルス感染症のパンデミックが起きて以来、生活習慣の変化等によって、睡眠の不調を訴える人も増加しているそうです。「自分の睡眠状況はどうなっているのか不安」「何故眠れないのか、その理由が知りたい」などといった切実な訴えが絶えません。あまりにも眠れない状況が続けば、医療機関の受診を考える人も当然出てくることでしょう。その一方で、睡眠不足については「医療機関を受診するほどではないが、それなりに悩んでいる」という人が少なくありません。

 

 

「何となく眠れない人や睡眠による休養感(睡眠休養感)が十分得られない人と、医療機関を受診しようと思うほどの症状を抱えている人との間を補完するものがないのが現状です。睡眠障害の診療の限界点と言えます(栗山医師)」。睡眠不足はその重要性に反して、適切な対策を講じられる手段が少ないという難点があるのです。

 

 

こうした何となく眠れない人や、睡眠休養感が十分でない人の“救世主”ともなり得るものが、今回紹介させて頂きます様々な「スリープテック」なのです。

スリープテックへの関心の高まり

近年、スマートウォッチなどの普及によって、手軽に心拍数や血糖値が終日計測可能となり、これまでに見過ごされていた体調の変化が把握しやすくなっています。睡眠も同じように、日常的な計測によって、良質な睡眠に導けるようであれば、それは望ましいことでしょう。実は、何らかの技術をもって睡眠不足や睡眠の、問題の問題を解決したいと考えている人が、世界中に沢山います。こうした人たちによって続々と開発されている様々な技術は、総じて「スリープテック」と呼ばれています。

 

 

スリープテック開発の勢いは目覚ましいものがあります。毎年1月にアメリカで開催されている世界最大級の家電・IT見本市「CES」でも、2018年からはスリープテック関連製品を集めて展示した「スリープテックゾーン」が登場しているほどです。睡眠や快眠への世界的な関心が高まっているのです。

 

 

これまでスリープテックは、主にその形状によって、大きく3~4種類に分かれてきました。

 

 

一つ目は、いわゆる「ベッド型」のスリープテックです。センサー搭載のマットレスに代表される、睡眠時の体勢をもとに睡眠を検知したり、睡眠の質を測定したりするタイプです。二つ目は、スマートウォッチのようにウェアラブルデバイスに搭載された加速度センサーや心拍計などを使って睡眠の時間や深さを測定するタイプです。三つ目は、脳波を測定して睡眠の状態などを解析するタイプです。四つ目として、スマホアプリによって睡眠管理を行うタイプが加わります。

 

 

但し、栗山医師が、最近のスリープテックについて、次のように捉えているそうです。「これだけ市場が広がってくると、多様化が進み、スリープテックとして一概にまとめるのが難しくなってきます。それぞれの製品が目指している理想の睡眠のかたちや、睡眠の評価に用いる技術も大きく異なります」。

 

 

そこで以下、個々の製品がどのようなメカニズムを用いて快眠にたどり着こうとしているのかを基に、スリープテックを改めて分類・紹介をしていきます。

寝具を介して快眠に導く

まずご紹介するのは、ベッド型のスリープテックです。睡眠時の姿勢を整えることで、眠りの質を高めようとするものです。

 

 

睡眠時の姿勢は、睡眠の質に影響を与えると言われます。寝具から身体の表面に加わる圧力(体圧)をできるだけ分散させる寝姿勢を保つことができると、寝返りがしやすく、疲労もとれにくくなります。従って、睡眠中の寝姿勢を調べることで、より快適な睡眠に近づけようとするのがこのタイプの特徴です。

 

 

単に質の良いマットレスというだけでなく、マットレスにセンサーを搭載することで、睡眠時間や眠りの深さ、寝つくまでの時間、途中で起きた回数などのデータを計測するタイプが最新型の主流です。それらのデータは専用アプリと連携させて、個々人にあった睡眠のアドバイスを提供します。その代表的な商品して、西川株式会社のエアーコネクテッドSXマットレス(HP➡https://www.airsleep.jp/lineup/connected_sx.html)が挙げられます。

 

 

また、寝具周りの家電との連携し、就寝中の温度や光を調整する機能を持つものもあります。ベッド型に搭載された睡眠センサーは、精度があまり高くないと言われることもありますが、センサーの位置や数を工夫することでより高精度のデータ取集が可能になってきています。

睡眠を「見える化」し快眠に導く

私たちは睡眠中に「レム睡眠(浅い睡眠)」と「ノンレム睡眠(深い睡眠)」と呼ばれる睡眠を交互に繰り返しています。この繰り返しを「睡眠サイクル」と呼びます。通常、私たちが眠りにつくと、まずノンレム睡眠(深い睡眠)に入っていきます。この最初のノンレム睡眠はとても重要と言われており、これをしっかりとることで、快適な眠りを得ることができます。ノンレム睡眠は約60分続き、その後、浅い睡眠であるレム睡眠に入っていきます。1回の睡眠のサイクルの長さはおよそ90分されていますが、日によって、または一晩の睡眠の中によってもその長さは変化します。

 

 

この睡眠サイクルを、加速度センサーや心拍計、脳波測定などを用いて検知し、グラフにして「見える化」することで、睡眠の問題点を把握、改善しようというのがスマートウォッチや脳波測定型のスリープテックです。

 

 

睡眠サイクルは、目覚めの良さにも関わっています。ノンレム睡眠のステージN3の最中に目覚めると不快感があり、レム睡眠、もしくはノンレム睡眠のステージN1かN2の最中に目覚めると爽快に起きられると言われています。最近では、睡眠サイクルに合わせてタイミングよく目覚ましアラームを鳴らしてくれる製品も登場しています。

 

 

正確な睡眠サイクルを計測した場合は、脳波を測定する必要があります。睡眠時の脳波の測定は、通常、医療機関に宿泊して行われることが多いです。しかし、株式会社S’UIMINが筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構と共同で開発した睡眠脳波計測サービスInSomnograf(インソムノグラフ)(HP➡https://www.suimin.co.jp/)は、簡便に装着でき、かつ寝心地を妨げない脳波計測機器を用いています。自宅でも、専門機関とほぼ同等の精度で睡眠状態を測定することができるのです。

 

 

このような高度なテクノロジーが家庭使えるようになるのも、スリープテックの魅力の一つだと言えるでしょう。

スマホだけで手軽に睡眠管理

睡眠管理アプリは、スマホを利用していれば簡単に取り入れられる身近なスリープテックと言えるでしょう。その一つであるPokémon Sleep(ポケモンスリープ)をご紹介します。監修は睡眠研究の第一人者である筑波大学柳沢正史博士です。この睡眠管理アプリは、人気キャラクターのポケモンたちが登場するゲーム性にあふれたものとなっており、このアプリをきっかけにポケモンファンのみならず、一般にも広く睡眠管理アプリが認知されるようになりました。

 

 

アプリの使い方は簡単です。ユーザーは就寝時にアプリを起動して、枕元にスマホを置きます。するとアプリは、ユーザーの睡眠データを計測・記録・分析した上で、様々な角度から睡眠を「見える化」してくれます。例えば、「今日の睡眠時間を点数化する」、「一晩の睡眠の質を、うとうと、すやすや、ぐっすり、特徴なしの四つに分類する」、「一週間を通した睡眠リズムを提示する」などです。毎晩の睡眠データを蓄積していくと、自分の睡眠タイプと似た睡眠タイプを持つポケモンたちが島に集まってきます。まるでポケモンたちと共に眠っているかのような気分になり、このようなゲーム性とスマホを横に置いて眠るだけで睡眠管理ができる手軽さがポケモンファンをはじめ多くの人々に受け入れられた理由でしょう。

 

 

アプリを提供する株式会社ポケモンは、世界7カ国のユーザー10万人以上を対象にデータ解析を行い、利用初期7日間においては、日本の平均睡眠時間が5時間52分で世界最下位だったことを明らかにしました。但し、その後の追跡調査により、アプリの利用を継続するにつれて睡眠時間が多くなり、継続1ヶ月後に約30分、3ヵ月以上で1時間10分も増えたことを突き止めました。ユーザーの多くは、継続するにつれて睡眠の質の改善を実感しているということです。

 

 

「スマホやゲームは睡眠を妨げるもの」と考えられてきましたが、Pokémon Sleepはスマホとゲームの特性をうまく使うことでユーザーに動機づけをし、睡眠を改善させることに成功したスリープテックと言えるでしょう。

さいごに

睡眠の研究はまだ道なはばです。そして、スリープテックも、まだまだこれからの発展が見込まれるテクノロジーです。とはいえ、うまく使いこなすことができれば現状でもスリープテックを用いて、自分が理想とする快眠のスタイルに近づくことは、十分可能と言えるでしょう。

 

 

快適な寝心地を得たいのか、深い眠りを得ることを追求したいのか、すっきりと目覚めたいのか…等々、それぞれの製品が目指す「快眠」と、自分自身が求める快眠を照らし合わせて、自分に合ったスリープテックを見つけてみて下さい。ここでご紹介したものは、スリープテックのほんの一部に過ぎないのです。

 

 

このコラムを読まれまして、ご自分の現在のご状況として、

気になる点がありました方や、興味・関心を抱かれた方は、

どうぞ当院まで、お気軽にお問い合わせください。

 

 

当院では、睡眠障害(不眠症)をはじめ、

うつ病、躁うつ病(双極性障害)、適応障害、不安症、

自律神経失調症、心身症、ストレス関連障害、冷え性、

パニック症、月経前症候群(PMS)、摂食障害(過食症)、

大人の発達障害(ADHD、自閉スペクトラム症)、

統合失調症、強迫症、過敏性腸症候群(IBS)など、

皆さまの抱えるこころのお悩みに対して、

心身両面からの治療とサポートを行っております。

 

 

Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)

参考引用文献:Newton別冊睡眠のサイエンス