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「アルコール依存」について教えて下さい…!

アルコール飲料、即ちお酒は、私たちの健康に大きな影響を及ぼすことがあります。アルコールに関連した一過性の障害(例えば、ブラックアウトや異常酩酊)は、殆どの人が経験したことがあるとも言われています。

 

 

日本酒1合(180ミリリットル)には、約21グラムのアルコールが含まれています。これを飲用すると、アルコールの血中濃度は飲酒後1時間でピークになり、体重60キロの人だと1デシリットルあたり、約40ミリグラムの血中濃度となります。その90%が肝臓で代謝され、残りが肺と腎臓から呼気中や尿中に排出されます。肝臓のアルコール代謝能力は、1時間で1デシリットルあたり平均15ミリグラム(10~35ミリグラム)です。

 

 

アルコールの中枢神経に対する作用は、少量ならば脳の血流を増加させ、機能を活性化させますが、過量となると、血流を減少させ活動を抑制します。

 

 

アルコール血中濃度0.05%(1デシリットルあたり50ミリグラム)では、判断力が低下し、抑制がなくなります。0.1%では手足の動きが不確かになり、0.1~0.15%を超えると酩酊とされています。0.3%になると、混乱、混迷を呈し、0.4%~.5%で昏睡となります。それを超えると、呼吸抑制などによって死に至ります。

アルコールの精神・身体への影響

お酒に酔った状態は、単純酩酊、複雑酩酊、病的酩酊の3つに分けられます。まず「単純酩酊」は、気分高揚や若干の抑制解除が見られる一般的な酩酊ですが、「複雑酩酊」は、平常の態度と違って怒りやすくなったり、粗暴な行動に走るという所謂「悪酔い」です。

 

 

「病的酩酊」は、飲酒によってもうろう状態、またはせん妄状態が生じて、精神運動興奮状態を呈し、その時期の行動を思い出せないという特徴がある酩酊です。この病的酩酊は突発的に発生し、予測のつかない行動に走るため、そこでしばしば犯罪が生じたり、犯罪や事故に巻き込まれたりします。

 

 

アルコールが身体に及ぼす影響としては、アルコール性肝炎や肝硬変、食道炎、胃炎、胃潰瘍、食道静脈瘤、膵臓炎、そして心筋梗塞や心筋障害、脳血管障害などが引き起こされます。また、睡眠に対しては、入眠を促進させますが、却って中途で目が覚めることが多いなどで、結果的に睡眠の質を低下させます

「寝酒」は良い?悪い?

眠れない夜にお酒を飲むという人がいるかもしれません。いわゆる「寝酒」です。お酒を飲んでから寝ると普段より早く入眠できることが知られており、実際に脳波を測定すると、ノンレム睡眠の時間が長くなります。

 

 

しかし、寝酒を飲むと、夜中に目が覚めやすく、睡眠が浅くなるため、良い入眠方法とは言えません。お酒のアルコール成分である「エタノール」は、身体の中で「アセトアルデヒド」という物質に変化します。このアセトアルデヒドが身体を活発にする「交感神経系」を刺激することで、夜中に目が覚めてしまうのです。また、アルコールにはリラックスや幸福感をもたらす神経伝達物質のGABA(ギャバ)と同じような作用がありますが、こうした作用を引き起こすためのアルコールの必要量は少しずつ増えていくとされており、結果、アルコール依存症などに繋がる危険性もあります。

 

 

脳科学的な観点から飲酒を許容できる範囲は、寝る時刻の4時間前までに、アルコールの分量は20グラムまで(日本酒では1合程度)です。眠るためのお酒は避けましょう。また、お酒を飲まないと眠れない」という人は、医療機関を受診されて、睡眠薬を処方してもらいましょう。その方が、身体にも、脳のためにも良いと言えます

アルコール依存について

アルコール依存とは、アルコールを飲みたいという強い欲望または強迫観念があることや、アルコールを飲むことによって様々な問題が生じているにも関わらず、飲酒をコントロールできないこと、飲む量を増やさないと酔った気分にならず、飲む量を減らすと、手が震えたり、動悸がしたりといった離脱症状が現れることから診断されます。

 

 

アメリカで調べられたアルコール依存の12か月有病率は、成人男性で約12.5%、成人女性で5%です。ロシアや南ヨーロッパ諸国などで多く見られますが、アジアでも増加しつつあります。日本のアルコール依存生涯経験者数は約100万人と言われています。

 

 

アルコール使用障害(アルコール依存症は、双極性障害(躁うつ病不安症うつ病に続発する場合や合併する場合があります。抑うつ気分睡眠障害、幼少期の行為障害(非行)やADHDの存在は、アルコール依存のリスクを高めます。アルコール依存には、社会文化的な要素が関連していると考えられています。飲酒行動に寛容な文化や特別な飲酒習慣のある環境では、アルコールの問題が発生しやすいことが知られています。

 

 

行動理論の立場からは、アルコールが一時的に不安や恐怖を和らげるために、それを強化する因子として作用し、アルコール依存を発症させると考えられています。家族研究や養子研究から、アルコール依存の発生には遺伝的要因も関与していると考えられています。アルコール依存の近親者がいる場合、一般よりも3~4倍もアルコール依存が多いことが知られています。

 

 

アルコール依存の治療の目標は「断酒」です。これには患者様の治療への主体的な意欲と努力は不可欠であり、これを促進させることが治療の課題とされることがあります。精神療法(カウンセリング)では、飲酒する状況や動機の分析、飲酒にかわるストレス対処法が焦点となります。他にも、飲酒のきっかけとなる不安や緊張に対処するために、リラクゼーション法やアサーショントレーニングの習得も行われます。

 

 

そして、アルコール依存の治療に有効なのが、自助グループなどへの参加です。自助グループへの参加は患者様の回復に特別な大きな力をもたらします。また、近年では当事者様だけでなく、アルコール依存症の人を抱える家族の方を対象とした自助グループも発達してきています。

 

 

薬物療法では、抗酒薬(アルコールの代謝を停滞させ、有害なアセトアルデヒドの血中濃度を高めて、飲酒するとかえって苦痛や気持ち悪さが生じるようにする薬剤)が用いられてきました。最近では、飲酒欲求を直接抑える働きのあるアカンプロセートやナルメフェンも断酒補助薬として、臨床現場では使用されています。また、断酒に伴って現れる精神症状(離脱症状)に対して抗不安薬などが用いられます。

 

 

「振戦せん妄」は、断酒に伴って現れる離脱症状の一つであり、身体合併症のあるケースに生じやすく、肺炎、腎臓病、肝不全、心臓疾患などで死に至ることが少なくありません。意識がはっきりしていながらも被害的な幻聴を体験するアルコール幻覚症も、離脱症状として位置づけられています。このほか、過度の飲酒によって妄想や不眠、または睡眠サイクルの逆転、自律神経の過剰な活動、アルコールてんかん(大発作)が生じることもあります。また、アルコール依存では、一般に短期記憶の障害が見られます。さらに、アルコールによる中枢神経系へのダメージが重なると、アルコール性認知症になることがあります。

抗酒薬とは?

抗酒薬には「シアナミド(商品名:シアノマイド)」「ジスルフィラム(商品名:ノックピン)」があり、アルコール代謝を抑える作用があります。そのため、薬を服用した患者様が飲酒をすると、体内にアセトアルデヒドが蓄積して、顔面が紅潮したり、悪心やめまいなどの不快な身体症状が生じます。よって、抗酒薬を服用することにより、アルコール依存症の患者様は、「断酒」への意志を強くすることができるのです。但し、アルコールを含む食品や飲料と併用すると、当然ながら前述のような不快な症状が現れるという副作用があります。その他、皮膚症状などが生じることもあります。

 

 

また、それとは違った作用機序の抗酒薬として、アルコール依存症の患者様の脳の報酬系に働きかけて、飲酒欲求そのものを抑えようという薬が、近年使用されるようになりました。2013年に発売された「アカンプロセート(商品名:レグテクト)」です。そして最近、アカンプロサートよりもさらに効果が大きいと期待されているナルメフェン塩酸塩水和物錠(商品名:セリンクロ錠が発売されています。

ご家族に出来ること

まず、本人がアルコールの害を科学的に正確に知る必要があります。大量の飲酒が続けば、やがて様々な健康被害や精神疾病が生じることを説明し、アルコールの危険性を自覚してもらうようにしてください。また、家族はアルコール依存の自助グループに本人が参加されるよう働きかけ、同じ立場にある人同士で助け合い、支え合ってお酒をやめるよう導くことをお勧めします。

 

 

但し、あまりしつこく「(お酒を)やめなさい」と忠告したり、非難したりするのは逆効果です。むしろ、相手の自尊心を尊重しながら、時々静かに「アルコールは家族を崩壊させる出発点になる」ということを相手が理解できる形で話し、本人が自覚して止めるようにそっと導くべきでしょう。

 

 

アルコール依存が全く止まらない場合には、病院に入院することも必要です。特に依存症というレベルになれば、禁断症状も極めて激しいものになり、時には生命の危険に及ぶこともあるほどです。こうしたケースでは、やはりアルコール病棟に入院し、アルコールを完全に断つことがとても重要です。

当事者様へのアドバイス

「うつ気分を晴らすために飲み、その内に大量に飲まずにはいられなくなってしまい、だんだん酒量が増えてきてしまった」というパターンが最も多いのですが、もしそうである場合は、心の問題を解決することが先になります。まずは医師を訪ねましょう。

 

 

アルコール依存症は社会的な信用な仕事、家族を失う可能性があるだけでなく、場合によっては脳に不可逆的な損傷さえ残しかねない恐ろしいものです。症状が進むほど治りにくくなりますから、早期治療が大切です。

 

 

但し、治療を受けるのは大切なことですが、やはり当事者ご本人に「アルコールをやめよう」という強い意志がないと始まりません。アルコールをやめられた人で、最も多いのは、「自分でやめる」という決断をした人です。

 

 

抗酒薬などもありますが、これを使えば誰もがやめられるわけではありませんし、入院して断酒に成功した人でも、退院した途端に逆戻りしてしまったというケースは少なくありません。その意味でも、自助グループなどに継続的に参加をし、お互いに励まし合いながら、粘り強く治していく姿勢が大切なのです。

このコラムを読まれまして、気になる点がありました方や、
興味・関心を抱かれた方は、どうぞ当院まで、
お気軽にお問い合わせください。

 

 

当院では、アルコール使用障害(アルコール依存症

睡眠障害(不眠症)、うつ病、躁うつ病(双極性障害)、

適応障害、自律神経失調症、ストレス関連障害、

パニック症、強迫症、不安症、摂食障害(過食症)、

大人の発達障害(ADHD、自閉スペクトラム症含む)、

月経前症候群(PMS)、過敏性腸症候群(IBS)、心身症など、

皆さまの抱えるこころのお悩みに対して、

心身両面からの治療とサポートを行っております。

 

 

Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)

 

参考引用文献:Newton別冊精神科医が教える心の病の説明書』・『睡眠のサイエンス