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【医師が解説!】 うつ病の療養・休職についてお話します!

うつ病は、薬を飲めばすぐ治る病気ではありません。まずは、一定期間、リラックスできる環境で休養を取りながら、適切な治療を受けて寛解(=病気の兆候が消退すること)を目指すことになります。

 

うつ病の経過は、急性期」回復期再発予防期という3つの段階を辿ります。再発予防期の段階にまで回復されれば社会復帰が検討できます。ただし、うつ病は再発しやすい病気ですので、この期間は薬物療法(投薬治療を続けながら、慎重に経過を観察する必要があります。

 

 

休養期間に個人差があり、一概に「回復までこの位掛かる」とは言えません。重症度によっても異なりますが、「抑うつ症状」ではなくうつ病の診断を受けた場合には、社会復帰までは半年以上掛かると考えておかれた方がよいでしょう。

 

うつ病になると、集中力が低下してしまい、仕事でミスが多発するため、自信を失って気分の落ち込みが酷くなることがあります。ですから、うつ病により仕事に支障が出ている場合は、病気の悪化を防ぐためにも休職をされた方が良い場合があります。

 

まず、仕事を休んだ方がよいのかどうか、主治医の先生に相談して下さい。そして、休職が望ましいと主治医が判断された場合は、診断書をもらって会社の上司と話し合いますすぐに休職するのか、どれくらいの期間休職するのかは、ケースバイケースです。

 

うつ病を発症した要因に職場のストレスが大きく関わっている場合、まずは環境調整が不可欠です。環境調整とは、人間関係や仕事量、仕事内容、職場での役割を見直し、心の負担を減らすことであり、うつ病の治療法の基本になります。これは、家庭内でも行う必要がありますが、職場のストレスを特に強く感じている人は、仕事環境の見直しが先決です。

 

職場のストレスを軽減する方法としては、仕事量の軽減、勤務内容の見直し、労働時間(特に残業時間・時間外労働)の適正化などがあります。まずは、こうした環境調整を試してみましょう

 

ただし、繰り返しなりますが、うつ病を発症したことで、仕事に支障が出るほどの強い抑うつが現れている場合は、主治医の先生に相談され、休職をされた方が良い場合もあります。

 

問題は、主治医の先生から診断書を貰って会社と話し合いをしても、休職が認められない場合です。会社側にも様々な事情があり、すぐに休職されたら困ることもあるかもしれません。ひとまずは環境調整を試しながら、会社側の上司や人事の担当者、場合によっては産業保健スタッフの方々ともよく相談され、話し合う治療ことが大切です。

 

うつ病の治療を受ける場合、家族や周囲の人の理解やサポートが必要です。特に、周囲の人の正しい理解(病気のために出来ないという理解)がないと、「怠けている」「いつも休んでばかりいる」といった誤解を受けかねません。

 

……とはいえ、うつ病であることを会社や友人に打ち明けられない人も多いでしょう。特に、保守的な風習が色濃く残っている環境では、心の病気であることを口にするのが難しい場合も少なからずあります。

 

こうした中であっても、自分がうつ病であることを伝えた方が良い相手は、会社の上司、あるいは産業医の先生です上司の方や産業医の先生に治療の経過を報告し、病気であるために何が困難なのか、治療のためにどのようなサポートが必要なのかを相談しましょう。そして、職場の同僚の協力を仰ぐ場合は、上司の方から伝えてもらうようにしましょう。

 

友人や知人に関しては、必要以上に心配を掛けないためにも、ある程度抑うつが回復されるまで、暫く距離を置いた方が良いかもしれません。

 

うつ病を発症して休職を検討する場合は、主治医に相談するのが一般的です。また、勤務先に産業医の先生がいる場合、健康不安による休職についての相談に乗ってもらえます

 

産業医とは、事業主(会社など)と業務契約を結び、従業員の健康管理を行う医師のことです。医療機関の医師とは違って治療は行いませんが、従業員が働けるかどうかを判定し、場合によっては、配置転換、労働時間の適正化、休暇・休職の必要性などを意見書にまとめて、事業主に助言することができます。勤務先に産業医のいる方は、面談(保健指導)を申し込まれて、心の不調を相談されてみて下さい。

うつ病の人は、自分が置かれている状況を冷静に考えられなくなっており、焦燥感が募って、時に投げやりな決断をされてしまいがちです。

 

特に、職場からのストレスでうつ病を発症された方の中には、仕事でミスが多発してしまった自分に自信が持てなくなり、ある日突然、上司に辞表を提出して退職されてしまわれるケースも見られます。また、うつ病になられたことで、家庭内の雰囲気が険悪になり、夫婦喧嘩をしたり、時に離婚話にまで発展したりすることすらあります。

 

しかし、うつ病の症状が強い時期に自信欠如や強い焦り、判断力の低下などで、場当たり的な決断をされてしまうと、あとでうつ病から回復した時に後悔することも少なくありません。

 

ですから、うつ病が重い状態では、退職、離婚といった重大な決断をしてはいけません。職場や家庭の問題は先送りしても構わないので、症状が快方に向かって冷静な判断力を取り戻されるまでは、ゆっくり休むことを心がけて下さい。

うつ病の治療のために勤務先を休職すると、その期間は賃金の一部が減額されたり、支給停止の措置が取られたりすることが多いようです。そうした休職中の収入減少は、家族を養う人にとっては大きな問題と言えるでしょう。

 

会社員などで健康保険に加入している人は、「傷病手当金」を受けられることがあります傷病手当金とは、病気やケガ(労災保険の給付対象は除く)が原因で連続して3日以上勤め先を休んだ場合、4日目以降から休んだ日数分、1日当たり標準報酬日額の3分の2が、1年6ヶ月まで支給される制度です。なお、休職期間中に勤務先から給料が支払われた場合は、差額分のみ支給されます(給料額の方が多い場合は支給されません)。詳しくは、全国健康保険協会に問い合わせてみて下さい。

 

国の制度として自立支援医療(精神通院医療)「障害者手帳(精神障害者保険福祉手帳)」等があります(こちらは、お住まいの各都道府県の指定窓口にお問い合わせ下さい)。他にも「高額療養費制度」などもあり、それらを利用されると通院治療費の減額等の措置を受けることが出来ます。

うつ病は回復期を経て寛解し、再発予防期に入れば、職場に戻って仕事を再開できるようになります。しかし、「寛解」とは病気の兆候が消退した状態であり、完治したわけではありません。そのため、うつ病が再発しないように服薬を続けながら、職場復帰が可能なのかどうかを慎重に判断する必要があります。

 

また、復職までのスケジュールや担当する仕事内容を予め会社と相談するなど、事前に環境調整を行っておくことも重要です。

 

うつ病が寛解して、職場復帰を検討する場合、その準備としてリワークプログラム(復職支援)を受ける方が近年増えてきています。リワークプログラムは、心の不調で仕事から離れていた人のために精神科で行うリハビリテーションで、職場復帰ができるように心身の状態を整えることと、病気の再発や再休職を予防することを目的に実施されます。

 

その内容は、自分自身を理解する「心理教育」、実務活動を行う「オフィスワーク」、複数人で共同作業を行う「グループ療法」などで構成されています(内容の詳細設定は、実施機関によって異なります)

通常は1日6時間(デイケアの場合)のプログラムを、週2日程度から始め、参加状況や回復具合を見ながら、参加日数を増やしていき、無理のない復職を目指します。当院(新宿ペリカンこころクリニック)でも、1日3時間(ショートケア)の体制でのプログラムを実施しておりますので、リワークプログラムを希望される方は、当院の医師にご相談下さい。

 

また、医療機関でのリワークプログラムとは別個のものとして、産業医面談をして、復職診断を受けた後に、職場内で就業練習の期間を設け、段階的に復職をしていくケースも増えてきていますので、ご自身の会社の復職ステップを一度確認されておくことをお勧めします。

 

 

参考・引用文献:『うつ・適応障害・双極性障害 心の名医7人が教える最高の治し方』(文響社)

 

Presented by. 新宿ペリカンこころクリニック(心療内科・精神科)

 

監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医)