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漢方薬入門!イライラ不安感

ある日の新宿ペリカンこころクリニック

むー・・・。
どうしたんだいペリスケ君。
あ、先生。このゲームなんだけど
なかなか難しくてイライラしてきちゃって。
そうなのか、ゲームをするのは良いけど
イライラしてる時に目の使い過ぎは良くないよ。
え、どうして?
怒りの感情をため込む肝は、
目の使い過ぎで消耗しやすいからね。
先生、イライラした時に飲む漢方薬って何かあるの?
勿論、ゲームの休憩に漢方薬の話でもしようか。

精神症状(イライラ・不安感)で処方されることのある漢方薬とポイント生薬

四逆散(しぎゃくさん)

柴胡、芍薬→肝の疏泄作用を促し肝鬱を改善させる

枳実→気を巡らせ、腸の蠕動運動を正す

甘草→痙攣を止め、痛みを止める

 

抑肝散(よくかんさん)

釣藤鈎、柴胡→肝の機能亢進を改善する

白朮、茯苓、甘草→脾の働きを改善し、水分代謝を正す

当帰、川芎→血を補う、血の流れを改善する

 

帰脾湯(きひとう)

黄耆、人参、白朮、甘草、茯苓、大棗、生姜→脾の働きを改善し、気を補う

当帰→血を補う

竜眼肉、酸棗仁、遠志→心気を増やし、精神を安定させる

木香→気を巡らせ、腸の蠕動運動を正す

 

加味帰脾湯(かみきひとう)

黄耆、人参、白朮、甘草、茯苓、大棗、生姜→脾の働きを改善し、気を補う

当帰→血を補う

竜眼肉、酸棗仁、遠志→心気を増やし、精神を安定させる

木香→気を巡らせ、腸の蠕動運動を正す

柴胡、山梔子→肝の疏泄作用を正す

 

柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)

柴胡、黄芩→肝の疏泄作用を正し、肝鬱を改善する

大黄→熱を冷ます、便を下す

茯苓→精神を安定させる、水分代謝を正す

半夏、生姜→吐き気を抑制する

人参、大棗、桂皮→脾の働きを改善し、気を補う

竜骨、牡蛎→精神不安定を、重さのある生薬で落ち着かせる

 

桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)

桂皮、生姜→辛温薬で発汗させて風寒邪を除く

芍薬→血を補う

甘草、大棗→気を補う

竜骨、牡蛎→精神不安定を、重さのある生薬で落ち着かせる


ポイント生薬

柴胡(さいこ)(四逆散、抑肝散、加味帰脾湯、柴胡加竜骨牡蛎湯)

柴胡の基原はセリ科のミシマサイコの根です。

柴胡は気を巡らせる作用に優れ、熱を発散させたり、炎症を抑える作用もあります。

元々は感染症の中期に用いられていた生薬ですが、肝の気をよく巡らせ感情の鎮静や肋骨の下の膨満感、圧痛に使用されています。

また、升麻と同じく気を持ち上げる働きあわせてうつうつとした気持ちを発散させる作用もあります。

 

釣藤鈎(ちょうとうこう)(抑肝散)

釣藤鈎の基原はアカネ科のカキカズラ、時には湯通しまたは蒸したものです。

精神鎮静作用と筋緊張緩和作用をあわせもつ生薬で、イライラを鎮め精神の興奮、筋緊張をおさえてくれます。

抑肝散に配合され小児の夜泣き、熱性けいれんの余殃、高齢者の不安、焦燥感など一見興奮性であるものの背景には繊細な弱さがあると言った場合に用います。

小児から高齢者まで広い範囲、年齢に関わらず使用することのできる生薬です。

てんかんやけいれんに対するさようがあるとされていますが、効果は不十分です。

 

竜眼肉(りゅうがんにく)(帰脾湯、加味帰脾湯)

竜眼肉はムクロジ科のリュウガンの仮種皮です。

甘味の強い果実で、生薬としてはドライフルーツとして使用します。

ライチに似た丸い果実の中にある大きな黒い種子を竜の目に例えて竜眼と名前がついたと言われています。

そのまま食材としても使われる食薬であり、調理が不要であることから生活に取り入れやすい生薬であるとも言えます。

竜眼は日照時間や土壌の温度が関わっているため、温室では果実をつけず日本では鹿児島の大隅半島でようやく結実を見ることが出来るそうです。

血を養い、心を和らげる効果があり不眠症改善に効果があり、疲労や気血不足による精神症状、物忘れ、貧血にも効果があります。

 

酸棗仁(さんそうにん)(帰脾湯、加味帰脾湯)

酸棗仁の基原はクロウメモドキ科のサネブトナツメの種子です。

ナツメよりも酸味が強いので「酸棗」と言います。

生薬として、ナツメ(大棗)は果実を使いますが酸棗仁は中の種子を利用します。

「疲れているのに眠れない」と言う不眠の症状に用いられる生薬です、これは心の血虚による不眠で、精神も身体も落ち着かずじっとしていられない感じがあります。

動悸や、夢が多くなることもあり即効性はありませんが継続して服用することで次第に心血が補われて安眠効果が得られます。

酸棗仁の酸味も心神を引き締めることで精神を安定させます。

また、酸味は津液を補い皮膚を引き締め汗を止めるため陰虚の寝汗にも用いられます。

 

遠志(おんじ)(帰脾湯、加味帰脾湯)

遠志の基原はヒメハギ科のイトイメハギの根または根皮です。

痰を除き心神の気血の流れを通じさせ、精神を穏やかに安定させる働きがあります。

「志を強くする」作用があることが名前の由来とされています。

ぼんやりとした、すっきりしない不安感、緩慢さ、不眠、夢が多い、動悸などに用いられています。

また、鎮咳去痰薬として慢性の呼吸器疾患などにも用いられます。

痰飲による皮膚の腫れもの、乳腺炎など初期の皮膚化膿症には外用薬として使われることも。

多量に使用するとむかつき、嘔吐を引き起こす恐れがあるので注意が必要です。

 

山梔子(さんしし)(加味帰脾湯)

山梔子の基原はアカネ科のクチナシの成熟果実です。

臓腑以外の隙間を「三焦」(さんしょう)と言いますが山梔子はこの三焦のこもった熱をとるため幅広く熱証に使用されています。

イライラやのぼせ、不安などが出る精神不安定で自制が効かない「煩躁」(はんそう)と言う状態にも効果があります。

また、利尿作用も持っている生薬です。

副作用として腸間膜静脈硬化症という疾患が言われているため内服している場合消化管内視鏡での検査が勧められています。

 

竜骨(りゅうこつ)(柴胡加竜骨牡蛎湯、桂枝加竜骨牡蛎湯)

竜骨の基原は、大型ほ乳類の化石化した骨で、主として炭酸カルシウムからなります。

竜となのつく化石ですが恐竜とは関係が無く、サイ類、ゾウ類、マンモスなど、古代の大型哺乳動物の化石です。

歯は長い間かたさを維持していることから「気」の収斂作用が強いと考えられており特に歯牙の化石は「竜牙」(りゅうし)といいもっとも効果が高いと言われています。

牡蛎(ぼれい)と同じように精神を安定させる効果があり、元からもつ収斂作用で身体に必要なものが外に漏れてしまうことを防ぎます。

牡蛎にも言えることですが鉱物系の生薬は効果がどっしりと安定している傾向が強く、この竜骨も「気持ちを座らせる」と評されることがあります。

 

牡蛎(ぼれい)(柴胡加竜骨牡蛎湯、桂枝加竜骨牡蛎湯)

牡蛎の基原はイタボガキ科のカキの貝殻です。

「ぼれい」と読みますが冬に美味しい牡蠣の殻のことです。

牡蠣は「海のミルク」と呼ばれる程に栄養価が高く、また食材としても体を潤し「血」を補い精神を落ち着かせてくれる作用があります。

生薬として用いる「ぼれい」もまた動揺する心神、肝を安定させてくれる効果があり不安、動悸、不眠に対する鎮静剤としてよく用いられます。

他にも牡蛎には身体に必要なものが外に出てしまうことを抑える効果と制酸作用があり。

寝汗、失禁、夢精、おりもの対策、胃酸過多にも使用することが出来ます。

こうしてまとめてみると肝と心が
関係している生薬が多いのかな。
その通り、鉱物系のどっしりとした効き目の
生薬も用いられているね。
僕はイライラだから四逆散か抑肝散かなー・・・。
じゃあ、今回は五臓別におすすめの漢方薬と
養生方法をまとめてみよう。

五臓からみる精神症状(イライラ・不安感)

イライラ、不安感などの精神症状は主に五臓の「肝」と「心」が関わっていると考えられます。

「肝」はイライラ、「心」は不安感で大きく分けられることがありますが肝と心は密接に関係しているのでどちらかをきっかけに両方の症状を起こすケースも多くあります。

まず、肝うつによるイライラは肝が昂ぶり怒りが沸き上がっている状態を指します。

ストレスを処理する、感情を安定させるはたらきをしている肝の気の流れが滞ってしまうとおもに怒りの感情が肝にため込まれイライラとなってあらわれます。

肝の気の巡りを改善し、精神的ストレスから来る胃痛にも用いられる「四逆散」(しぎゃくさん)また肝の熱を冷まして怒りの感情を抑える「抑肝散」(よくかんさん)などが用いられます。

なお、このような肝うつの場合は漢方薬以外だと外出したり、運動をしたり、誰かに気持ちを話すなど「怒」の感情を発散させることが有効です。

次に、心神不安(しんじんふあん)により感じる不安感です。

心神不安は簡単に言うと精神不安の状態です、五臓の中で精神活動を司っている心の働きが不安定になると、不安感、怠さ、食欲不振といった症状が起こります。

また、このような症状は責任感、正義感の強い人に見られやすいとも言われています。

気や血を補って心を安定させる帰脾湯が。

そして、そこに山梔子、柴胡を加えた加味帰脾湯や柴胡加竜骨牡蛎湯、桂枝加竜骨牡蛎湯は肝心どちらにも作用してイライラ、不安感どちらの精神症状も鎮めてくれます。

なお、このような心神不安の場合は自身の抱える責任などの負担を軽減すること、「喜」の感情は心を強めるので楽しい時間をつくることも有効です。

でも、イライラ不安を感じた時は
何より重要なのは休むことだよ。
先生、肝の不調なのか心の不調なのかで
過ごし方が違うのはなんで?
それは、七情の影響から考えてだね。
し、しちじょう・・・?
大丈夫ちゃんと説明するからね。

七情(しちじょう)とは

七情とは「怒」「喜」「思」「悲」「憂」「恐」「驚」の7つの感情の変化のことを言います。

七情の乱れは臓器に影響して疾病を引き起こす原因となります。

ただし、そのものが病気の原因となるわけでなくそれぞれの感情が急激、強烈な精神的衝動や長時間におよぶ持続的な精神刺激によって起こる場合に健康を害する原因となります。

七情はそれぞれ、五臓の気によって維持されています。

そのため、五臓に異常が発生すると感情にも変化が起きるのです。

逆にそれぞれの感情が行き過ぎると関係している五臓に影響を与えます。

 

肝と関係している感情は「怒」です。

怒則気上と言い、怒ればすなわち気が上がります。

怒り過ぎると、肝の疏泄作用が失調し、肝気が上がり過ぎて頭痛、めまい、目の赤みなどの症状があらわれます。

 

心と関係している感情は「喜」です。

喜則気緩と言い、喜べばすなわち気が緩みます。

喜び過ぎると、心気は緩みすぎて精神が集中出来なくなり動悸、不眠、激しい場合は失神など精神の異常があらわれます。

 

脾と関係している感情は「思」です。

思は思い悩む、考え込む、と捉えてみて下さい。

思則気結と言い、思えばすなわち気はつまります。

思慮による精神疲労が過度になると、脾気が結して運化作用(栄養を体中に消化・吸収・運搬する作用)が失調し、腹部膨満や軟便、飲食物が喉を通らない、食欲不振などの症状があらわれます。

 

肺と関係している感情は「悲」「憂」

悲則気消と言い、悲しみ憂えば、すなわち気は消沈します。

悲しみや憂いが過ぎると、肺気を消耗し、意気消沈して呼吸が早くなり咳が出る、話したくない、声のかすれなどの症状があらわれます。

 

腎と関係している感情は「恐」と「驚」

恐則気下と言い、恐れれば、すなわち気が下がる。

また、驚則気乱と言い、驚けば、すなわり気は乱れます。

恐れすぎると腎気が下がり気の固摂作用が失調して大小便の失禁、遺精、流産、早漏、閉経が早まるなどをもたらします。

激しい驚きによって腎気が乱れると心の機能に影響して精神不安定、大小便の失禁、動悸、不眠、不安、ひどい場合には精神錯乱状態も起きます。

漢方では様々な要素が五行に属しているんだよ。
うーん、これは更に五行説が深まったな・・・。
まぁ、あくまで全体像として属しているだけなので
実際の状態や症状と違っても焦らないようにね。
先生、いつもみたいに
イライラ不安感に良い薬膳も知りたいな!
そうだな、それじゃあ・・・。

イライラ・不安感におすすめの食材

レタス

レタスは体内にこもった余分な熱を取る作用があるのでめまい、イライラ、ほてり、のぼせにむいています。

サラダなどに入っていることが多く生で食することが多いレタスですが涼性のため生のままで食べると内臓が冷えてしまうことも。

冷え症の人は炒め物にしたりゆでたり加熱して食べるのがおすすめです。

 

牡蠣

牡蠣は牡蛎(ぼれい)の材料にもなっている食材でその身も情緒不安定に効果があります。

心、肝ともに作用するので心と体を癒してくれる食材です。

また体の乾燥を潤し、血を補う作用があるので口の渇き、目のかすみ、不眠、生理不順にも。

滋養強壮効果で心身が弱っている時にもおすすめです。

 

ジャスミン茶

ジャスミン茶の香りには、気の巡りを活発にする作用があります。

情緒不安、食欲不振、げっぷと言った症状に適していて肝、心どちらにも作用するのでイライラにも不安感にも効果が期待出来ます。

身体を温めて血の滞りを解消する作用もあるので肩こり、肌のくすみ、生理痛などの改善にも有効です。

飲み物も薬膳に入るんだ、取り入れやすそう!
そうだね、ところでペリスケ君イライラはどうなった?
・・・あ!忘れてた!
イライラしている時はその原因から
離れてみるのも一つの手だね。
今日は少しゲームはお休みするよ、先生ありがとう!

 

こうしてペリスケ君の漢方薬入門の日々は続いていくのでした・・・

 

出典:

現場で使える薬剤師・登録販売者のための漢方相談便利帖 杉山卓也著 SHOEISHA

生薬と漢方薬の事典 田中耕一郎 編著 日本文芸社

 

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監修者 佐々木裕人(精神保健指定医、精神科専門医)