以前挙げたブログの中で、ADHDの方の中に「新奇性探究」傾向が強い人が存在することを記載させて頂きました。この「新奇性探究」の傾向には「環境適応」との深いかかわりがあります。
発達や性格と関係が深い遺伝的特性の一つに、「新奇性探究」があります。新規性探究とは、新しい刺激を求める傾向で、ドーパミンD4受容体の遺伝子タイプとの関連が知られており、繰り返し配列が長いタイプの人に、新奇性探究が強い傾向が見られます。
この遺伝子タイプの人に見られやすい問題として、気が散りやすく不注意になりやすいこと、相手の話や文書の内容をじっくり理解せずに印象で判断して、大きな勘違いをしてしまうこと、じっとしていることがストレスに感じられ、根気や集中力が続かないこと、乱雑な傾向や整理が苦手な傾向が見られやすいこと、対人関係が気まぐれで愛着が薄く、移ろいやすいこと、危険な刺激を求めて失敗しやすいこと…等々が挙げられています。
その一方で、冒険やリスクを好み直観力や行動力にも優れています。
新奇性探究の強い遺伝子タイプを持つ人は、10人に1人くらいおり、特に遊牧民や過去に大移動を経験した民族では、その割合が高いことが知られています。つまり、この遺伝子は、平和な時代には適応を妨げる要因にもなりますが、動乱の時代には、生き延びる上で有利だとも言えるのです。
新奇性探究の強い人は、そもそも定住生活が余り向かないようで、また単調なデスクワークなども、このタイプの人には向きません。不注意のためにミスを連発してしまいますし、本人にとっても、じっと1か所に座っていること自体が大きなストレスとなります。
ですので、絶えず動きながらできるような仕事の仕方が向いています。新しいものを追い求めるということは、裏を返せば愛着が薄いということでもあります。実際、人にも土地にも愛着が薄い傾向があるようで、引っ越しや仕事が変わることも、むしろ活力剤となります。
逆に1か所に縛られ過ぎると、このタイプの人は強みを発揮できず、余り成功を収めにくいところがあります。方々を飛び回れるような仕事や、次々と新しい出会いがあるような仕事が合っていると言えます。
正確さを求められる仕事より、大雑把な感覚で出来る仕事が向いています。管理や整理が苦手で、物は乱雑になりやすく、時間やスケジュールの管理が苦手なため、遅刻や締め切りに間に合わないことが起こりやすいかもしれません。
このタイプの人はマイペースなので、組織の中で働くよりも、自営業の方が向いています。このタイプの人で成功している人は、たいてい自営業やフリーで仕事をしています。組織で上手くやるためには、事務的な処理を肩代わりしてくれる秘書的な存在が必要だと言えるでしょう。
このタイプの人が管理職になると、思いつきの行動により周囲が振り回されたり、管理が滞ってしまうために、円滑な組織運営が難しくなります。ですが、それは逆に言えば、昇進するにつれて、このタイプの人はストレスを感じやすくなるということなのです。
そういったご自身の特性をよく分かっている人は、下積み時代が終わると、早々に独立をする道を選びます。若くして起業する人も少なくありません。冒険を恐れないという面を活かし、また自分のペースでやれるため、その方がストレスが少ないのです。
しかし、安定志向が強まる風潮の中で、このタイプの人が組織に留まり続けるというケースも昔より増えてきており、その場合は中々苦しい思いをしがちのようです。このタイプの人は、減点法で採点されてしまうと、ミスが多いためどうしても不利になります。公務員や一般の勤労者には向かないタイプなのです。特に上司が厳格なタイプの場合、息が詰まるような思いをすることになります。のびのびと仕事をされることで初めて、このタイプの人は強みを発揮できることを考えると、それはとてもやり辛い状況であるのは言うまでもありません。独立に備えて、資格の取得や技術的修練を計画的に進めていかれた方が得策でしょう。
事務処理能力や整理整頓などに難点を抱えやすいですが、そうした点は訓練と習慣化によってある程度克服することができます。その場合のポイントは、仕組みやルールを作り上げ、それを守る習慣をつけることです。また、自分が苦手な点に優れた人をパートナーとされることで、上手く短所を補うことも可能でしょう。
世界のホンダを創業した本田宗一郎氏は、若い頃は相当にやんちゃで、何度も命を失いかけるような目に遭ったそうです。恐らく、発達特性として、この新奇性探究が強いタイプの典型であったのだと推察されます。物作りにかけては天才的である一方で、勉強は苦手で、経営も最初はどんぶり勘定だったそうです。そこで出会ったのが、藤沢武夫氏という経営のプロであり、会社を管理する能力に長けていた人物でした。その二つの才能が補い合って、世界のホンダへの大発展が可能となったのです。
このように、自分の特性を知り、それを活かせるような場に身をおくこと。あるいは、サポートしてくれる相手を見つけ、それぞれの苦手を補い合うような仕組みをご自分で作ってしまうこと。このような事柄が、新奇性探究の特性を強く持たれた方が、世の中に適応していく上で重要なこととなってくるのかと思われます。宜しければ、当院のブログ『発達障害の幸せのカギは職選びです!』も併せてご参照下さい。
当院(新宿ペリカンこころクリニック)では、ご希望の患者様に、ウェクスラー成人知能検査(WAIS)を施行することが可能な医療機関となっております。
ご自身の能力の凸凹の可能性が気になられる患者様、とりわけ発達障害(ADHDやASD)の可能性を危惧されている患者様は、御診察の際に、その旨を当院医師にお申し出頂けましたら幸いです。
Presented by.医療法人社団ペリカン(心療内科・精神科・内科)
監修 佐々木裕人(精神保健指定医・精神科専門医・内科医)
参考引用文献:岡田尊司著『ストレスと適応障害』(幻冬舎新書)