A.
医療法人社団ペリカン六本木ペリカンこころクリニック(心療内科、精神科)です。
大人の発達障害と関連深い「ワーキングメモリー」について、以前同コラムにて、ご説明させて頂きました。
ワーキングメモリーとは、同時並行処理(マルチタスク)に関わってくる能力であり、
このワーキングメモリーの容量が狭いと、マルチタスクが上手くできない、
同時処理をしようと思うと、その分何か別のことが記憶テーブルから落ちてしまう
(=失念してしまう)といった出来事が起こり易くなります。
そして、大人のADHDや自閉スペクトラム症(以下、ASD)の方の中には、
このことで悩まされている方も決して少なくはありません。
大人になってから(社会人になってから)は、学生時代とは異なり、
「無理に苦手を克服しようとするよりも、自分の長所を伸ばしていくこと」が
推奨されていますし、確かにその方が時間的にも効率的ではあります。
しかし、だからと言って、通常の業務に支障を来してしまうようなものであれば、
「苦手だから」といって放置しておいて良いか、というとそうも言ってられません。
その苦手をフォローできるような何かしらの方策を立てたり、
ご自分なりに少しでも苦手意識がなくなるように努めていくことが、
その方ご自身にとっても必要になってくるでしょう。
そこで今回ご紹介するのが、
「ワーキングメモリーが弱い場合の対処と、改善に役立つトレーニングと工夫」です。
ワーキングメモリーが弱い場合の対処の基本は、
メモをとることと、書いて考えることです。
最近は、メモや板書の代わりに、スマホ等で写真を撮ることも頻用されていますが、
それに頼り過ぎてしまうと、
ワーキングメモリーが更に低下してしまう可能性がある為、
手を動かしてメモを取る努力も怠らない方がよいでしょう。
最近では個人情報や知的財産所有権の問題から、
スマホやデジカメ、あるいはスクショ禁止のケースもあることから、
いざそういった時にでも対応できる気持ち的“心構え”を作る上でも、
このことは大切なことだと言えます。
また、聞き取れなかったことをそのままにせず、
「すみません。~で良かったでしょうか?」とか、
「すみません。もう一度お願いできますか。間違えたらいけませんので」と、
必ず確認をするようにしましょう。
メモは決まったものを、「1冊だけ」、常時携帯するようにします。
メモが幾つもあると、今度はメモ自体が管理できなくなってしまい、
却って逆効果になりますので、この点は守られることをお勧めします。
スケジュール管理にはスマホが便利ですが、
メモ帳としては手書きが出来るものをいつも携帯する習慣をつけましょう。
1冊のメモ帳に必要な情報が全て書かれているようにすると、
探す手間も省けます。
トレーニングの方法としては、まず「聞き取りの練習」が挙げられます。
講義や人の話を聞く際に、ノートやメモを取ることが基本です。
実際に書くことによって初めて、
自分がどれだけ聞き取れているかどうかがはっきりと分かります。
書くためには、ワーキングメモリーに、
一時的に聞き取ったことを保存しておく必要があるため、
それが良い訓練となるのです。
計算をすることも、ワーキングメモリーのトレーニングになります。
例えば、「百マス計算」などは、恰好の方法だと言えるでしょう。
文章を書き写すことは優れた学習法であるのと同時に、
ワーキングメモリーの良い訓練法でもあります。
ある程度長いフレーズを頭に入れながら、
出来るだけ元の文章を見返さないようにして書くようにすると、
より一層効果的です。
語学の勉強も、ワーキングメモリーを鍛える優れた方法です。
同時通訳をする人は、驚異的なワーキングメモリーを持っていますが、
それは(生まれつきの才能ではなく)訓練によって身につけられたものです。
具体的には、
読み上げられた文章をそのまま繰り返すリピーディング、
聞き取りながら同時に喋るシャドゥイング、
聞きながら書き取るディクテーション等は、
それぞれ一つひとつはとてもシンプルなことですが、
いずれもワーキングメモリー向上に非常に効果的な訓練法です。
こういった事柄を日々コツコツと行っていくことで、
気が付かない内に徐々にワーキングメモリーが向上していきます。
珠算や将棋を長年やっていらっしゃる方は、
超人的とも言えるワーキングメモリーを有していることが知られていますが、
それは、一日も欠かさず、日々コツコツと訓練をされていかれた「賜物」であると、
言っても過言ではないでしょう。
このコラムを読まれて、
ご自分の現在のご状況として気になる点がありました方や、
興味・関心を抱かれた方は、
どうぞ当院まで、お気軽にお問い合わせください。
当院では、
大人の発達障害(ADHD、自閉スペクトラム症含む)をはじめ、
うつ病、躁うつ病、不安障害、適応障害、摂食障害、パニック障害、
睡眠障害、自律神経失調症、月経前症候群、統合失調症、強迫性障害など、
皆さまの抱えるこころのお悩みに対して、
心身両面からの治療とサポートを行っております。
今後とも、医療法人社団ペリカン六本木ペリカンこころクリニック(心療内科、精神科)を宜しくお願い致します。