こころのペリカン便り

Column

【心療内科/精神科医の名著紹介】 『看護覚え書』(フロレンス・ナイチンゲール著)に見る「こころ」 #18

今回は、『看護覚え書』(フロレンス・ナイチンゲール著)に見る「こころ」の18回目です。

 

 

よろしくお願いいたします。

 

 

 

(P15 序章 より)

 

 

看護とは、新鮮な空気、陽光、暖かさ、清潔さ、静かさなどを適切に整え、こららを活かして用いること、また食事内容を適切に選択し適切に与えること―こういったことのすべてを、患者の生命力の消耗を最小にするように整えること、を意味すべきである。

 

だいぶ終わりに近いこのシリーズですが、いくつか重要なフレーズを飛ばしてしまっていたので、取り上げておきます。

 

 

日本の精神科医の中で名医を呼ばれる先生は多くいらっしゃいますが、その中でも有名なお一人として、笠原嘉先生がいらっしゃいます。

笠原先生は、戦後の日本の精神医学を牽引されてきた先生です。

特に、精神科医になれば必ず学ぶものとして、笠原先生の「小精神療法7か条」というものがあります(呼び名はいくつかあります)。

これは、うつ病の患者さんへの向き合い方を説いたもので、先生が提唱されてから数十年が経過していますが、今でも基本中の基本であり最重要な姿勢です。

 

(a)・「病気である」ことを医療者が確認する 

    ・「なまけ」ではないことを認める 

(b)・できるだけ心理的休養のとれる体制をとらせる 

    ・心理的休養のためには平素の仕事場から離れる必要がある 

        ・休養できないとしたら,できるだけ業務量を減らすよう厳命する 

(c)・薬の有用性を説く 

    ・投薬によって起こり得る不快な副作用を教える 

(d)・予測できる治癒の時点を(完治までに多分6カ月はかかると)はっきりと明言する 

(e)・治療中自殺しないことを誓わせる 

(f)・治療終了まで人生に関わる大問題(退職,転居など)についての決定を延期させる 

(g)・治療中一進一退のあることを教える 

    ・多くの病気はその快癒期に三寒四温がある 

        ・一喜一憂するな 

        ・気分や症状の良し悪しは 2 週間単位くらいで量るように提案する

 

うつ病の基本の治療姿勢は、2つ目もある「十分な療養」です。

身体疾患でもそうですが、うつ病でもエネルギー(生命力)を著しく消耗しています。

その状態で無理に仕事などを続けようとすると、ますます消耗してしまい、本当に枯渇しかねません。

うつ病になる患者さんは皆さん真面目な方ばかりなので、療養することに罪悪感や負い目、引け目を感じることが多いです。

しかし、当然ですが、これは治療として重要なことであって、当然ですが「なまけ」でも「甘え」でもありません。

私たち医師は、それを患者さん本人及びご家族さまにもお伝えします。

ご家族さまも、とても心配、不安を抱えていらっしゃいます。

ご家族さまにも、よく説明した上で、まずは患者さんが安心して療養できる環境を整えてくださるようお願いします。

各々のケースで実際上は種々のバリエーションがありますが、基本姿勢は「生命力の消耗を最小にする」ことなのです。

 

なお、いわゆる”現代型うつ病”等の場合は、必ずしもこれが当てはまらないことがあります。

”現代型うつ病”に関しては、別記事でいずれご紹介できればと思います。

 

(次回に続きます)