こころのペリカン便り

Column

【心療内科/精神科医の名著紹介】 『看護覚え書』(フロレンス・ナイチンゲール著)に見る「こころ」 #17

今回は、『看護覚え書』(フロレンス・ナイチンゲール著)に見る「こころ」の17回目です。

 

 

よろしくお願いいたします。

 

 

 

(P230 補章 看護婦とは何か より)

 

 

何かに対して《使命》を感じるとはどういうことであろうか? それは何が《正しく》何が《最善》であるかという、あなた自身が持っている高い理念を達成させるために自分の仕事をすることであり、もしその仕事をしないでいたら「指摘される」からするというものではない、ということではないだろうか。・・・(中略)・・・看護婦は、自分自身の理念の満足を求めて病人の世話をするのでないかぎり、ほかからのどんな《指示命令》によっても、熱意を持って看護することはできないであろう。

 

マズローの「欲求5段階説」というものがあります。

これはアブラハム・ハロルド・マズロー(Abraham Harold Maslow)という、前世紀で活躍したアメリの心理学者が唱えたもので、人の欲求を5段階に分けたものです。

現代では批判もされていますが、一度勉強してみる価値はあると思います。

 

5段階とは、低位から「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「承認欲求」と上り、最後の第5段階に「自己実現欲求」があります(各欲求等の詳細はネットで検索すれば、大量に情報がありますので、ここでは割愛します)。

 

第4段階の「承認欲求」はさらにその中に低位と高位があります。

「承認欲求」と言うと、現代の日本では「他人から認められたい」思いを指すことが多いですが、これは低位の「承認欲求」にすぎません。

高位の「承認欲求」とは、他者ではなく自己に認められたい欲求です。

自分で自分を褒めらえる、満足させられるようになりたいという思いです。

 

あらゆる仕事に対して言えることでしょうが、対人援助においても、ここまでやればよい=これ以上はしなくよいという”ライン”や”ゴール”のようなものはありません。

「患者さんの具合がもっと良くなる方法はないか」「患者さんにもっと役立てることはないか」と常に自分に問いかけながら、日々の仕事に当たっています。

仕事に対して対価である報酬が与えられるから、というだけでは人はそこまで動かないのは自明でしょう。

患者さんへの思いであると同時に、自身への思いがなければ成立しません。

つまり、「より高みに上りたい」という高位の承認欲求によって、高次元の対人援助が実現するのです。

 

ちなみに第5段階の「自己実現欲求」も超えた第6段階の「自己超越欲求」があると後にマズローは述べており、それは自己の内に完結せず、社会をより良くしたいなど、外部の幸福を願う欲求があるとしていますが、これに達する人はかなり少ないとのことです。

世界に看護を広げたナイチンゲールは、その数少ない一人でしょうね(マズローが既に述べているかもしれませんが)。

 

(次回に続きます)