こころのペリカン便り

Column

【心療内科/精神科医の名著紹介】 『看護覚え書』(フロレンス・ナイチンゲール著)に見る「こころ」 #16

今回は、『看護覚え書』(フロレンス・ナイチンゲール著)に見る「こころ」の16回目です。

 

 

よろしくお願いいたします。

 

 

 

(P230 補章 看護婦とは何か より)

 

 

・・・(中略)・・・看護婦教育のABC・・・(中略)・・・看護婦が学ぶべきAは、病気の人間とはどういう存在であるかを知ることである。Bは、病気の人間に対してどのように行動すべきかを知ることである。Cは、自分の患者は病気の人間であって動物ではないとわきまえることである。

 

今回は、Cの「自分の患者は病気の人間であって動物ではない」に焦点を当てましょう。

 

フィリップ・ピネル(Philippe Pinel)という、フランスの精神科医がいます。

1700年代後半を中心に活躍しました。

彼の最大の功績とされるのは、「鎖の解放」です。

ピネルの時代、そもそもきちんとした精神医学と呼べるほどのものはなく、精神病者は「悪魔つき」などと呼ばれ、病院というより収容所のようなところに鎖でつながれていました。

しかし、ピネルは、啓蒙思想や百科全書派の勉強もしており、「心的療法」(traitement moral)という人道的、心理学的な見地からの治療法を模索していました。

そこで赴任していたビセトール病院で、鎖につながれていた精神病者を文字通り「解放」したのでした。

これは今でも精神医学史に語りつながれる重要な出来事です。

最近の研究では、実際には、元患者であったという説もあるジャン=バティスト・ピュサンが解放を実行したとも言われていますが、ピネルの存在があってこそであるのはまぎれもない事実です。

ピネルはその後、サルペトリエール病院でも同様に鎖からの解放を行っています。

ピネルは、患者の人権を重視し、治験ではなく臨床的で温かい医療を目指しました。

ひるがえって、現代ではどうでしょうか?

正直に言って、まだ世の中全体も、医療の中でさえも、精神科患者さんへの見方は十分なものではないでしょう。

しかし、決してあきらめずに、クリニックという小さな空間の中ですが、ここだけは温かいところにしていたいと思います。

 

(次回に続きます)