コラム

Column

【医師が解説】肥満症とは? 症状と検査、予防などを解説!

※当院で、直接治療しているものではありません

  • 肥満症は肥満(BMI 25以上)+健康障害
  • 肥満を解消すると健康障害が改善する可能性があります。
  • まずは3%の減量を目標に。
  • 二次性肥満の可能性を忘れない。
  • 肥満患者には精神疾患の併発の可能性があるので注意が必要です。

肥満、肥満症、メタボリック症候群の違い

  • 肥満度の指標となるBody Mass Index(BMI)は体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で求めます。肥満の定義はBMIが25以上であることです。BMI 35以上で高度肥満と言います。
  • 肥満症の定義は、肥満に関連する健康被害を合併するか、その合併症が予測され、減量を必要とする病態です。
  • メタボリックシンドロームは、内臓脂肪蓄積(ウエスト周囲長増加)を必須項目として脂質代謝、血圧、血糖値の3つの項目のうち2つ以上の異常を満たす病態を差します。

 

現状と経年変化

  • 肥満者(BMI≧25)の割合は男性で増加傾向にあり、40~50歳代の男性で最も大きいことが分かっています。
  • 人口1億人以上の他の国と比べて、日本の肥満者割合は女性で小さい物の男性でやや大きく、男女とも25≪BMI<30の占める部分が大きいです。
  • 日本のBMI≧30とBMI≧35の割合は男女ともに増加していますが、人口1億人以上の他の国々に比べて女性で増加が緩やかです。
  • BMI≧30の男女で過剰なエネルギー摂取が長期にわたって加速する傾向にあります。

 

要因・成因

  • 食生活、飲酒、身体活動、睡眠、喫煙、心理的社会的・社会的経済的要因、職業要因、性ホルモン・加齢、胎児期および出生後の栄養状態が大きな影響を及ぼすと言われています。
  • エネルギー摂取量の方は体重増加をきたし、低エネルギー食は体重減少をきたします。糖質摂取割合が大きいこと、蛋白質摂取割合が小さいことは肥満と関連します。また、早食いでは満腹感を感じる前に食べ過ぎてしまい、エネルギー摂取量の過剰を介して体重増加と関連すると考えられています。
  • 多量飲酒はエネルギー過剰摂取を介し体重増加リスクを上昇させます。
  • 食事度同様に身体活動はエネルギー出納を左右するので体重増加と密接に関連します。定期的な運動と食事介入の併用は肥満予防効果を高めます。不活発な座位時間の長さは体重増加と関連します。
  • 短時間睡眠は体重増加と関連すると報告されています。
  • 重度喫煙者は肥満度・ウエスト周囲長が多く、喫煙暴露量が大きいと禁煙後の体重増加量が大きいことがわかっています。禁煙に伴う体重増加は食事や運動介入により抑制されます。
  • ストレスなどの心理的特性や居住地域などの社会的特性も、食事や身体活動への影響を介し肥満度と関連します。
  • 労働時間の長さ、交代勤務の有無、職階は、食習慣や身体活動量を介して体重に影響します。
  • 加齢に伴うエストロゲンやアンドロゲンの減少が体脂肪の増加をきたします。
  • 妊娠期の母体の過剰な体重増加・喫煙・母乳栄養期間の短さなどが出生児のその後の肥満リスクと関連します。

 

肥満の健康障害への影響

  • 現在のBMIが高いこと、ウエスト周囲長が大きいこと、およびBMI(体重)の経時的な増加は高血圧発祥の危険因子です。また、体重の減量は血圧を低下させます。(減量0kgあたり、収縮期血圧は約1.0mmHg低下します。)
  • 性別に関係なく、肥満と低HDL-C血症・高トリグリセライド血症との関連は、高コレステロール血症・高LDL-C血症との関連に比べて強いことがわかっています。食事に対する介入による体重減量は脂質関連指標を改善させます。
  • 現在のBMIが高いこと、および、体重の経時的な増加は2型糖尿病発症の危険因子です。肥満を伴う耐糖能異常者に対する体重減少を目標とした強力な生活習慣改善は糖尿病の発症リスクを低下させます。
  • 高血圧、脂質異常症、糖尿病以外にも、肥満関連指標と心房細動、心不全、心臓突然死、胆嚢疾患、悪性腫瘍などに関連する研究がおこなわれており、心房細動、心不全、心臓突然死についてはBMI上昇ごとにリスクが2~1.4倍上昇すると報告されています。多くの悪性腫瘍で肥満関連指標の増加とともにリスクが上昇することが示されています。

 

肥満症の診断

  • 肥満には病因のある二次性肥満と、明らかな基礎疾患がない原発性肥満があります。
  • 二次性肥満には、内分泌性肥満(甲状腺機能低下症、クッシング症候群、インスリノーマ、多嚢胞性卵巣症候群など)、遺伝的肥満(Prader-Willi症候群など)、視床下部性肥満や薬剤性肥満(原因薬剤はステロイドや向精神薬など)などがあります。
  • 多くの肥満は原発性肥満ですが、病歴や服薬歴などから二次性肥満の可能性を除外することは常に意識しなければなりません。
  • 肥満(BMI≧25)があった場合に、二次性肥満を除外し、高度肥満かどうかBMIで判定し、健康障害や内臓脂肪蓄積があれば肥満症と診断します。

 

治療と管理 ※当院では治療は行っておりません

  • 肥満症は体重(BMI)が大きいから疾患とされるのではなく、肥満に基づく健康障害を合併しているために疾患とされています。したがって、治療の目標は体重を大きく減量することではなく、減量によって健康障害を予防・改善することです。
  • 肥満症は、肥満に貴院ないし関連する健康障害を複数合併することが多い点が特徴であり、その原因は内臓脂肪の過剰蓄積であることが判明しています。したがって、内臓脂肪を減少させることは、内臓脂肪蓄積に起因する複数の健康障害(肥満の合併症)の改善に有効です。すなわち、肥満症と診断したら、肥満に合併する糖尿病や高血圧、脂質異常症などを個々の疾患に対する薬物療法で治療する前に、まず減量治療を行い、合併疾患を改善することが推奨されています。
  • 肥満症患者様は一旦減量に成功し健康障害の改善が見られても、リバウンドしやすく再悪化しやすいことが知られています。減量の達成、リバウンドの防止には、患者様のパーソナリティを把握し、食事、運動など生活習慣の開園に向けた行動変容を促す行動療法は有効です。それでも不十分な場合に、減量を目的とした薬物療法を行うべきです。
  • 肥満症の減量目標は3~6ヶ月で現体重の3%、高度肥満症の減量目標は現疾患により異なります。
  1. 食事療法
  • 食事療法は体重を減らし、内臓脂肪量を減少させる肥満症治療の基本療法であり、その目的は肥満に伴う種々の健康障害を改善することにある。
  • 減量のためには、摂取エネルギー量を制限することがもっとも有効で確立された方法です。一般に、摂取エネルギーを消費エネルギーより少なくする必要があります。
  • 目標とする1日の摂取エネルギー量は25kcal×目標体重(kg)以下(高度肥満症の場合には20~25kcal×目標体重(kg)以下)とします。当初の指示エネルギー量で減量が得られなくなった場合には、さらに低い摂取エネルギー量を再設定します。十分な減量が得られない場合は600kcal/日以下の超低エネルギー食(very low-calorie diet :VLCD)の選択を考慮します。
  • 各栄養素のバランスとしては、指示エネルギーのうち、炭水化物50~65%、蛋白質13~20%、脂肪20~30%とするのが一般的です。体重減少のためには糖質の制限が有効です。
  • 肥満者の食事療法では必須アミノ酸を含む蛋白質、ビタミン、ミネラルの十分な摂取も必要です。
  • 合併症改善にはリバウンドを伴わない継続した減量が最も有効です。
  1. 運動療法
  • 運動療法の推奨は有酸素運動を中心に(レジスタンス運動の併用も望ましい)、軽~中等度の運動を1日30分以上(短時間の積み重ねでもよい)、毎日あるいは週150分以上となっています。通勤の片道における歩行時間を分類した研究によると、歩行時間が長くなるほど、高血圧罹患率や糖尿病罹患率が低下することが報告されています。肥満患者様への運動療法導入段階では、アクティブガイド(健康づくりのための身体活動指針)のメインメッセージである「+10(プラステン):今より10分多く体を動かそう」を推奨し、運動に対する抵抗感や無関心を軽減することが肝心です。なお、10分の運動は約1,000歩の歩行に相当します。
  • 運動療法は肥満予防に有効ですが、減量(体重減少)にはあまり効果的ではありません。内臓脂肪の有意な減少には、現在の生活に加えて、10METs・時/ 週以上の運動が必要であり、これは30分間の速歩(4METs)を週5日行うことに相当します。これらはかなりハードルが高く、最終的な目標値と位置付けた方が賢明です。運動療法は減量体重の維持に有用です。
  • 運動療法は時間・頻度が推奨レベルに達していなくても、心血管疾患発症・重症化リスクを低下させます。座位行動の減少は死亡/心血管発症・重症化リスクを低下させます。
  • 運動中の心血管イベントの主な原因は、急性心筋梗塞とそれによる突然死です。したがって、運動の可否を判断する必要があります。心血管イベント発症予防のため、メディカルクリアランスとして医師による問診と運動負荷試験を実施します。運動器疾患に関しては、自覚症状、整形外科受診の有無を確認し、必要に応じて整形外科医と相談しつつ勧めます。

 

 

  1. 行動療法
  • 行動療法の併用には、原料と減量した体重の維持に一定の効果があることが示されております。肥満症治療のターゲットはおもに内臓脂肪であり、比較的軽度な減量とその長期的維持にあります。肥満症患者にライフスタイルを詳細に尋ねると、効果が上がらない患者様は生活リズムが乱れていることが多いです。実際に、シフトワーカーは内臓脂肪型肥満になりやすく、体内時計が乱れると肥満やメタボリックシンドロームを発症することが報告されています。生産効率を上げるための食事時間や睡眠時間の短縮は、早食い・荒噛みとなり、食事の深夜か、睡眠不足に伴う朝食の欠食や固め食いに連動し、概日リズム障害の原因となります。つまり、肥満症治療においては、過食や運動不足の改善だけでなく、生活リズムの修正も非常に重要な要素となります。行動療法は生活リズムの修正と内臓脂肪燃焼をターゲットとした質的な減量を目指し、従来の治療法を強化し継続させることを目的としています。
  • 日本肥満学会では我が国の治療条件に合わせて7つの留意点(①セルフモニタリング、②ストレス管理、③先行刺激のコントロール、④問題点の抽出と解決、⑤修復行動の報酬による強化、⑥認知の再構築、⑦社会的サポート)を示しており、それを踏まえて、具体的な治療技法を4つ示しています。
    • 食行動質問表

生活習慣の基盤になる食習慣を把握することを目的としています。患者様があまり認識していない食習慣の問題点を抽出するために、現実的かつ具体的で、客観的な評価法が必要です。食行動質問表は肥満患者が実際に発した言葉や感想から作成されているので、質問に答える過程で患者様御自身が食行動の問題点に気付くことができます。食行動質問表の意義は、食行動が異常か健常かといった判断をするのではなく、食生活における感覚のずれや食行動のくせについて質の程度と強さを認識させることにあります。食行動質問表により得られた情報を領域別に得点化したものが食行動ダイアグラムです。ダイアグラムによって患者様の食生活や職志向の特徴が一度に視覚化でき、どの領域にどの程度の問題点があるかが把握できて、その食生活を修正する際の目安になります。

  • グラフ化体重日記

体重を測定した場合には、それを記載し、視覚化すると減量効果が上がることが実証されています。モバイルツールによるセルフモニタリングは、食事や運動内容よりも体重測定のモニタリングの方がり効率が高いことが分かっています。グラフ化体重日記は、起床直後、朝食直後、夕食直後、就寝直前の1日4回の体重を測定し、体重の日内変動ならびに1週間の体重変動をグラフにして記載していただきます。3回の食事を適量に、かつリズム正しく摂取した日の体重波形はきれいな山形になります。一方で、過度な運動や外食、夜更かしの伴う夜間の飲食、便秘なども体重波形の乱れとして現れるので、生活活動や排便の状態とともに、生活リズムの問題点が抽出できます。特に、夕食直後から就寝直前の体重減少幅が大きいほど、内臓脂肪が減少することが報告されています。グラフ化体重日記の意義は、生活リズムの乱れに伴う体重変化の把握と自己修正にあり、体重測定を習慣化させることでもあります。グラフ化体重日記を用いて減量に成功した患者様に共通してみられる変化は、体重波形の規則化と早い時間帯での夕食の摂取です。このことは患者様の食生活や日常生活のリズムの改善がエネルギー収支に好影響を与えていることを示しています。グラフ化体重日記の記載と継続は生活リズムの矯正と安定化にも寄与しています。

  • グラフ化生活日記

不健康なライフスタイルが生活リズム異常の原因になっているかを把握するには、時間軸を含めた調査が必要です。グラフ化体重日記はエネルギー代謝を支配する生活イベント、特に睡眠、食事・間食、ならびに通勤・通学、勤務、入浴などの具体的な生活活動について、どの時間帯に、どの程度の所要時間かがわかるように帯で記載するものです。朝食の欠食が常習化している患者様では、肥満症治療を希望して受診した早い段階で導入し、生活背景を理解することに努めます。生活リズム異常が不用意な体重増加に寄与していることを繰り返し説明し、修復が可能な点を患者様と一緒に探って参ります。

  • 咀嚼法

肥満症患者様は荒噛みで早食いであることが多いです。早食いについては「時々そういうことがある」というレベルでも、体重増加に繋がります。また、食べる速さが遅い人の方が、速い人よりもメタボリックシンドロームの割合が少ないことが報告されています。しっかりとした咀嚼は早食いの是正のみならず、食本来の持つ歯ごたえや味覚の回復、オーラルフレイルの予防、さらには満腹感覚の改善による食事量の減少、さらに内臓脂肪特異的な脂肪分解まで期待できます。30回咀嚼法は、食事の際に一度口に運んだものを30回咀嚼してから飲み込みます。食事は生命活動に必須であるので、咀嚼法を主体とした治療法の構築には持続性が期待できます。食事のウエイトは夕食が最も高いのが一般的であり、内臓脂肪は夜に蓄積されることを考えると、夕食への介入が効果的です。このような観点から、咀嚼法の利点を最大限に発揮させ、同時に生活リズムの修正を狙った治療法が「ボウル法」です。ポイントは①夕食時の咀嚼の重要性を強化し、咀嚼に適した食材を、ゆっくりと丁寧に、そして一生懸命に噛むことに集中する、②メインディッシュも同様によく噛んで食べるが、満腹を感じたら、速やかに箸を置く、③夕食後の1~2時間は家族団欒にあて、そのあとに過度にならないレベルの生活活動を入れる、④良質な睡眠を確保するために、ゆっくりと入浴し、入浴後はすぐに就寝する。軽い生活活動から入浴、睡眠を連動させることが重要です。行動療法の目的は、生活リズムの修正と内臓脂肪燃焼をターゲットとした質的な改善にあります。ボウル療法はこれらのすべてが盛り込まれており、行動療法を遂行するうえで、ひとつの指針となります。

  1. 薬物療法
  • 肥満症に対する薬物療法を開始する前に、原発性肥満に対しては食事療法、運動療法および行動療法を実施すること、二次性肥満に対しては確定診断し、原因疾患の治療や原因除去を優先することが重要です。これらを3~6か月行い、1か月あたり5~1kg程度の減量が得られるようであれば薬物療法は開始せず、同じ治療を継続します。非薬物療法で有効な減量が得られない場合、あるいは合併症の重篤性から急速な減量が必要な場合には薬物療法の併用を検討します。
  • 高度肥満症で合併症(肥満症の診断に必要な健康障害)を1つ以上、または肥満症で内臓脂肪面積≧100㎠かつ合併症を2つ以上有する症例に対し、薬物療法の適応があります。肥満症の程度、合併症や併存疾患、非薬物療法の有効性および減量の必要性とその数値的な評価(目標体重)を総合的に判断して、薬物療法を併用するかどうか慎重に判断する必要があります。薬物療法を併用する場合でも、非薬物療法を継続して行う必要があります。
  • 肥満症の薬物療法は、それぞれの国によって用いられる薬物の種類や適応が大きく異なっています。これは、肥満の定義自体のみならず、人種、疫学データ、食事を含む文化的背景や生活習慣、または肥満者の割合や重症度が国によって大きく異なることと同時に、肥満症に対する薬剤では副作用が生じることが比較的多いことに起因しています。このことから、自由診療や海外からの個人輸入を用いた、安全性や有効性のデータが不十分な薬剤使用が横行しやすい現状があることにも留意しています。
  • 肥満症の治療薬を作用機序で分類すると、中枢神経に作用して摂食を抑制するもの、交感神経を活発化させて代謝を促進するもの、エネルギーの腸管からの吸収を抑制するもの、摂取したエネルギーの排出を促進するもの、エネルギーの細胞内における利用効率を低下させるものなどに分けられます。
    • GLP-1受容体作動薬

小腸のL細胞から分泌されるGLP-1は膵インスリン分泌促進作用とグルカゴン分泌抑制作用のほか、中枢神経における摂食抑制作用や腸管運動抑制作用を持ちます。内因性のGLP-1はDPP-4により短時間で分解され、非活動性となりますが、このDPP-4による分解に抵抗性のGLP-1類似分子が薬剤として開発されており、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)と呼ばれています。ペプチド製剤のため、現在日本で発売されている薬剤は主に注射製剤であり、自己注射の指導が必要です。副作用としては悪心、嘔吐、便秘、下痢、脈拍上昇が挙げられます。低用量から開始し、徐々に増量することで悪心・嘔吐の副作用を低減できるタイプも多いです。糖尿病の治療薬であり、肥満症に対する減量作用は保険適用上の効果ではないことに留意が必要です。また、体重減少作用の大きいものと小さいものがあり、中枢神経への移行度が体重減少作用の大きさと関連すると考えられています。

セマグルチドは、週1回投与の皮下注射製剤と毎日1回投与の経口内服製剤の2剤形を持つGLP-1RAであり、2型糖尿病に対して保険適応があります。注射製剤では0.25mg, 0.5mg, 1mgの製剤が、経口薬は3mg, 7mg, 14mgの製剤があります。いずれも初期量から導入し、副作用がないことを確認したのちに増量が可能です。経口薬は注射薬と比較して体重への作用は弱いものの、自己注射が不可能な肥満2型糖尿病患者様に有用と考えています。ただし、1日のうち最初の食事または飲水の前に120ml以下の水で服用し、少なくとも30分間は飲食をしないという服用方法に注意が必要です。

リラグルチドは2型糖尿病に対して1日1回1,8mg皮下注射が保険適応されています。

デュラグルチドは週1回製剤で血糖降下作用は強く、心血管イベント抑制作用も報告されています。しかし、体重に対する作用はセマグルチドやリラグルチドと比較して弱いと言われています。

GLP-1と同様に腸管から分泌され、膵β細胞のインスリン分泌を促進するGIPは、基礎研究の結果からは体重を増加させると考えられていたのに反し、GIPとGLP-1の両方の受容体作動薬チルゼパチドが強い血糖降下作用と体重減少作用をもつことが臨床的に示されています。新たな糖尿病・肥満症の治療薬として期待されています。

  • マジンドール

視床下部に作用して食欲を抑制する薬剤です。弱いノルアドレナリン放出作用と、ノルアドレナリン・アドレナリンの取り込み抑制作用により、脳内カテコラミン濃度を増加させることが作用機序と考えられています。日本における使用の保険適応は高度肥満症または肥満度[(実体重-標準体重)/標準体重×100]が+70%以上で、食事療法や運動療法の効果が不十分な患者様に限ります。覚醒剤と一部作用機序が類似していることから、安全性と依存性について慎重に観察しながら使用すべきであるため、連続の使用は3か月以内、または1回の処方は14日間制限があります。ただし、多幸感や依存症は臨床的には認められません。禁忌として不安・抑うつ・異常興奮状態の患者様および統合失調症などの精神障害のある患者様、薬物・アルコール濫用歴、脳血管障害、重度の心・肝・腎・膵障害、重症高血圧、閉塞隅角緑内障などがあります。発生率の高い副作用として、口喝、便秘、不眠、悪心などがあげられます。また、肺高血圧症の副作用にも注意が必要です。

  • GLP-1RA以外の糖尿病治療薬

SGLT2阻害薬は、近位尿細管でブドウ糖を再吸収するSGLT2を阻害することにより尿中ブドウ糖を排出させ、血糖を低下させます。1日あたり約80gのブドウ糖を尿中に排泄させるため、負のエネルギーバランスになり減量に繋がります。複数の研究において、1,5~2kgの追加減量が報告されています。GLP-1RAと組み合わせることにより相加的な減量効果が期待されます。また、糖尿病患者での心血管イベントを抑制すること、心不全・腎障害の進行を抑制することが報告されています。副作用としては性器感染症が知られており、特に高度肥満症の患者様では多い印象があります。

ほかに、ビグアナイドやαグルコシダーゼ阻害薬も軽度ではあるが体重減少作用を認めるため、肥満2型糖尿病患者様では使いやすいです。逆に、スルホニル尿素薬、インスリン、チアゾリジン関連薬については体重増加作用を認めるため、肥満症を合併する患者様への使用は必要性のある時にとどめます。

  • 糖尿病がなくても使用できるマジンドール以外の薬剤 ※当院では処方はしておりません。

腸管でのトリグリセライドを分解するリパーゼの阻害薬について、今後OCT医薬品として販売される可能性があります。

  • 過食性障害に対する薬剤

過食性障害は短時間に通常の食事と比較して多量の食物を摂取し、苦痛や罪悪感を抱く症状を特徴とする食行動異常です。抗てんかん薬トピラマートは過食性障害における過食回数を減少させ、体重を減少させたと報告されています。食行動のパターンを聞き取り過食性障害と診断した場合、基本となる行動療法に加え、トピラマートの投与も検討します。副作用としては代謝性アシドーシス、自殺企図や自殺念慮のあるうつ病の症状悪化、または双極性障害の患者様に対する急性の躁症状などが報告されていて注意が必要です。

  • 薬剤性肥満の治療薬

肥満を来しうる薬剤の種類は多く、特にステロイド、抗うつ薬、(アミトリプチン、ミルタザピン、パロキセチンなど)、非定型抗精神病薬(オランザピン、クロザピン、クエチアピン、リスペリドンなど)、神経障害性疼痛治療薬(プレガバリン、ミロガバリン)、など使用頻度の高いものが含まれています。現病の治療のために中止できない場合も多いですが、類似薬で肥満の副作用が軽度の薬剤に変更するなどの工夫が望ましいです。

  1. 外科療法 ※当院では対応しておりません。
  • 肥満症に対する外科療法により体重減少および2型糖尿病の改善が認められることが報告されています。また、高度肥満症にたいする外科療法は、内科療法に比較して効果的な体重減少が長期的に維持でき、肥満関連健康障害の改善効果も良好であることが報告されています。最近では、外科療法は体重減少が起こる前の術後早期から代謝改善と種々の消化管ホルモンの変化などが認識され、減量・代謝改善手術(metabolic surgery)と呼ぶことが一般的となっております。高度肥満症は内科療法が極めて困難な疾患で、高度肥満症においては、食事療法、運動療法、認知行動療法、薬物療法を含む内科療法に加えて、外科療法が治療選択肢として国内外で推奨されています。
  • 減量・代謝改善手術の実施に当たっては、安全な手術の提供と周術期管理に加えて、術後長期にわたるフォローアップなどの診療体制が重要で、医師、看護師、管理栄養士、公認心理士、理学療法士、その他の医療スタッフによるチーム医療が必須です。
  • 第2回糖尿病外科サミットでは、アジア人においては、BMI≧5では血糖コントロールの如何に関わらず、BNI 32.5~37.4では血糖コントロールが不良な2型糖尿病に、減量・代謝改善手術を推奨する治療アルゴリズムが提唱されています。
  • 日本人の肥満2型糖尿病患者様に対する減量・代謝改善手術の適応基準については、日本肥満症学会・日本糖尿病学会・日本肥満学会の3学会合同委員会よりコンセンサスステートメントが作成され、糖尿病の治療の選択肢に外科療法が加えられました。受診時にBMI≧35の2型糖尿病で、糖尿病専門医や肥満症専門医による6か月以上の治療でもBMI≧35が継続する場合には、血糖コントロールの如何に関わらず減量・代謝改善手術が治療選択肢として推奨されています。
  • 胃を小さく形成することで食事摂取量を制限する手術法として、調節性胃バンディング術やスリーブ状胃切除術があります。食事摂取制限手術に加え、消化管(小腸)をバイパスすることで消化吸収を抑制する手術法として、ルーワイ胃バイパス術やスリーブ状胃切除術および十二指腸空腸バイパス術(スリーブバイパス術)があります。これらの術式は腹腔鏡下に実施されていますが、現在、わが国で保険収載されている術式はスリーブ状胃切除術のみで、これが海外でも最も多く施行されています。この術式は糖尿病罹患歴が短く、インスリン分泌能がよく保持されている肥満2型糖尿病患者様に推奨されています。