医療法人社団ペリカン六本木ペリカンこころクリニック(心療内科、精神科)でございます。
当院にご興味下さり、誠にありがとうございます。
Q:「梔子豉湯(しししとう)はどういう漢方ですか?」
A:理気剤(順気剤)の1つで、気が鬱滞しているときに用いられます。
エキス製剤はありません。
漢方薬は、「なんとなく体に優しそう」というイメージもあり、とっつきやすいところがメリットかと思います。
どうしても味が苦いのと(これも漢方によりますが)、基本的には粉であることを乗り越えていただけるのであれば、治療の選択肢の1つになると思います。
漢方薬は、保険収載(保険適応されるもの)されているものだけで100種類以上あり、心療内科、精神科といったメンタルの領域で有名な漢方もいくつもあります。
<分類>
梔子豉湯は、理気剤(順気剤)の1つです。
ここでは、理気剤について解説します。
理気剤は、「気」の症状がある方に用いる方剤です。
「気」とは、「気血水(津液)」の「気」です。
和漢(日本漢方)では、「気血水」と言い、中医学(中国医学)では「気血津液」と言います。
気血水は体内を循環しており、病はその異常によって起こると考え、それを整えることが治療につながると考えます。
気の役割は、以下となります。(難しいので、飛ばしていただいても構いません。)
1.推動:成長・発育、生理機能・代謝の推進、津液・血の運行の原動力、気の運行
気によって身体は成長し、血水を全身に循環させているのも気です。
2.温煦(おんく)・気化:体温調節、体温維持、気血水の運行の基礎
身体全体を温めます(温煦)。これは単に身体を熱くするという意味以外に、それによって生体機能が維持され、推動作用の基礎ともなり、身体全体の陽気の基礎ともなります。
また、冷たく重いものを温めて軽くし(気化)、身体の上方に上昇するようにしています。これによって、血水が運行されることとなります。
3.化生:物質転化(消化吸収、ガス交換、気血水を生成)
気は、気自身はもちろん、血水を作る能力があります。
化生作用とは、循環するものの生成や貯蔵物を利用可能なものに転化することを意味します。
消化吸収、合成、呼吸のガス交換もこれで説明できます。
生成機能にかかわるので、身体全体の陰の基礎とも言えます。
4.防衛:病邪の排除、包囲吸収(免疫機能)
気は、表層で外邪の侵入を防いだり、侵入したものを攻撃、排除します。
内部に侵入した外邪や内部で発生した内邪は、包囲吸収して消滅、固定させ、周囲への影響を阻止します
これは現代の免疫学の基礎とも非常に近いところがあります。
5.固摂・統血:漏出・排泄過多の防止、排泄・分泌の統制(発汗調節、止血、排尿調節)
固摂(こせつ)作用とは、汗腺の調整や、タンパク質や糖などの身体に必要な物質が外部に漏出しないようにする働きを指します。
これは排尿や大便も含まれ、その調整を気が行っていることとなります。
漏出防止だけでなく、逆に程度に放出したりする役割も有しています。
固摂は、身体の内外の漏出に対して用いられ、統血は血管外に「血」を漏出させない働きを指します。
長くなりましたが、理気剤とはこういった気の流れの乱れを改善させるものを指します。
理気剤には、気の動揺に用いられる動的なものと、気の鬱滞に用いられる静的なものがあります。
静的なものは、体の一部に痞えや閉塞性を感じるもので、いわゆる抑うつ状態につながります。
動的なものは、気分の浮き沈みが激しく、躁的なものをイメージします。
理気剤の中で、半夏厚朴湯、梔子豉湯(しししとう)、香蘇散(こうそさん)は気の鬱滞に用いられ、柴胡加竜骨牡蛎湯、柴胡桂枝乾姜湯、桂枝加竜骨牡蛎湯は気の動揺に用いられ、釣藤散(ちょうとうさん)、甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)は気の動揺と鬱滞の両方に、麦門冬湯(ばくもんどうとう)は気の上逆による咳嗽(せき)に、小柴胡湯、加味逍遙散は、潔癖症などに用います。
なお、心療内科、精神科といったメンタルの領域では、この理気剤のほかに、駆瘀血(おけつ)剤、承気湯類も、用いられます。
前置きが長くなりましたが、今からようやく本題の梔子豉湯(しししとう)の解説をしたいと思います。
梔子豉湯は、気が鬱滞しているときに用いられる方剤です。
半夏厚朴湯は咽中で気が鬱滞しているときに用いられますが、梔子豉湯は胸中で気が鬱滞しているときに用いられます。
そのため、胸中や食道がふさがった感じになったり、痛い場合が適しています。
虚証で、心中懊憹(しんちゅうおうのう)、身熱(悪寒を伴わない熱感を覚えるもの)、咽喉乾燥、口苦、喘咳、腹満、自汗、身重などがある場合に処方されます。
身熱は、全身に現れる場合と局所的に現れる場合があります。
いずれの症状も急性のことが多いです。
なお、下痢傾向がある場合には使用を避けます。
参考病名一覧:
ノイローゼ、神経衰弱、ヒステリー、ゆううつ、不眠、神経質など、心療内科、精神科といったメンタル領域
食道狭窄、食道けいれん、食道癌、口内炎、咽頭炎、など、そのほかの食道、呼吸器疾患
肺結核、肺炎などの呼吸器疾患など
心臓病、高血圧などの循環器疾患など
急性肝炎、黄疸、二日酔い、胆嚢炎その他の肝臓や胆嚢の疾患
胃酸過多、胃酸欠乏、胃カタル、胃潰瘍などの消化器疾患
喀血、吐血、下血などの出血状態
湿疹、乾癬、蕁麻疹、搔痒症などの皮膚疾患
そのほか、血の道症、凍傷、痔核など
なお、梔子豉湯の加味方として、梔子甘草豉湯、梔子生姜豉湯といったものもあります。
<原典>
傷寒論、金匱要略に記載されていますが、原文は不明のため、判明次第追記します。
<構成生薬>
山梔子(さんしし) 3.0g
香豉(こうし) 4.0g
山梔子は、アカネ科のクチナシ、またはその他同属植物の成熟果実です。
球形を山梔子、細長いものを水梔子といいます。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%81%E3%83%8A%E3%82%B7
効能:
1.清熱瀉火・除煩
外感熱病の胸中鬱熱で胸中が熱苦しく、不快、不眠を呈するときに、透熱散邪の香豉とともに用います。
これがまさに梔子豉湯です。
2.清熱利湿
湿熱の黄疸に、茵蔯・黄柏・大黄とともに用います。
これは茵蔯蒿湯などが該当します。
3.清熱涼血・止血
血熱妄行の吐血・鼻出血・血便、血尿、皮下出血などに、大黄・黄柏・黄連・茅根、側柏葉とともに用います。
4.清熱解毒
熱毒による皮膚化膿症に、黄連、黄芩、金銀花、連翹などと用います。
エキス製剤がないので、処方はできませんが、ご興味のある方は診察時にご相談ください。
今後とも、医療法人社団ペリカン六本木ペリカンこころクリニック(心療内科、精神科)をよろしくお願いいたします。