医療法人社団ペリカン六本木ペリカンこころクリニック(心療内科、精神科)でございます。
当院にご興味下さり、誠にありがとうございます。
Q:「十味敗毒湯 (じゅうみはいどくとう)とはどういう漢方ですか?」に、お答えします。
A:皮膚疾患に広く用いられる方剤です。
特に化膿性のもの初期に適しているとされ、尋常性ざ瘡(ニキビ)に対して有効で、多くの皮膚科、美容皮膚科クリニックでも処方されます。
その名の通り、10種類の薬味を組み合わせており、体表の毒を中和、排泄させます。
エキス製剤の番号は、6番です。
漢方薬は、「なんとなく体に優しそう」というイメージもあり、とっつきやすいところがメリットかと思います。
どうしても味が苦いのと(これも漢方によりますが)、基本的には粉であることを乗り越えていただけるのであれば、治療の選択肢の1つになると思います。
漢方薬は、保険収載(保険適応されるもの)されているものだけで100種類以上あり、心療内科、精神科といったメンタルの領域で有名な漢方もいくつもあります。
<分類>
十味敗毒湯は、柴胡剤の1つとして分類されます。
柴胡剤とは、柴胡が入っている方剤(処方)を言います。
柴胡(さいこ)は生薬の1つで、漢方薬を知るうえで大変重要です。
セリ科のミシマサイコ、またはその変種の根です。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%82%B7%E3%83%9E%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%B3#:~:text=%E3%83%9F%E3%82%B7%E3%83%9E%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%B3%EF%BC%88%E4%B8%89%E5%B3%B6%E6%9F%B4%E8%83%A1%E3%80%81Bupleurum,%E3%81%AF%E3%82%BB%E3%83%AA%E7%A7%91%E3%81%AE%E5%A4%9A%E5%B9%B4%E8%8D%89%E3%80%82
Wikipediaにもあるように、この学名の由来はまさに日本で、ミシマとは現在の静岡県の三島に由来します。
ただ乱獲が原因で、現在日本原産のものは少なく、輸入が多くなっています。
効能は、配合によって異なり、大変幅広いのですが、特に精神領域において、疏肝解鬱といって、肝気気滞を開通させる効果があります。
目印は、肋骨の下の痛み、苦しみ、圧痛で、これを胸脇苦満(きょうきょうくまん)と言います。
特に右側の肋骨の下には肝臓がありますので、柴胡は肝臓に作用して、その痛みをとり、滞っていた気の流れを開通させ、精神安定を目指すわけです。
解毒作用とも言え、体質改善にもつながります。
西洋医学の病名で言うところの、肝機能障害、肝炎、肝硬変、胆嚢炎、胆石などの肝臓の疾患に始まり、肋膜炎、膵臓疾患、肺疾患、リンパ腺炎、そして、胃酸過多、嘔気、嘔吐、食思不振、精神不安、不眠症などの精神領域まで、幅広く用いられます。
<証>
十味敗毒湯は、小柴胡湯証に近いとされ、少陽病に相当します。
漢方の原典である傷寒論(しょうかんろん)では、急性病(熱病)の経過を6つの段階に分けており、これを六病位、または三陰三陽といいます。
三陽とは太陽病、陽明病(ようめいびょう)、少陽病の3つ、三陰とは太陰病(たいいんびょう)、少陰病(しょういんびょう)、厥陰病(けっちんびょう)の3つです。
熱病の初期は、太陽病の形で発病し、少陽病または直接陽明病に変化し、さらに三陰に進行すると考えられています。
太陽病とは、「脈浮、頭項強痛、悪寒す」(傷寒論)とあるように、脈が浮き(脈診等で判断)、頭から首が強く痛み、悪寒がする状態を指します。
このようなステージなら、漢方の代表である葛根湯などが適しています。
少陽病は、この太陽病の次のステージで、「口苦く咽乾き、目眩(めくるめく)なり」(傷寒論)とあるように、口が苦い、のどが渇く、めまいがしてふらふらする状態を指します。
少陽病で、特に虚証(元気、活気がない状態)の場合に用いられます。
<原典>
原方である荊防敗毒散を青洲が修正したもなので、いわゆる原典はありませんが、ここでは浅田宗伯の勿誤薬室方函口訣の文章を紹介しましょう。
癰疽、及び諸瘡腫、初起増寒壮熱し、疼痛するものを治す。
此方は青洲が荊防敗毒散を取捨したる者にて、荊散よりは其の力優なりとす。
<構成生薬>
桔梗 3.0g
柴胡 3.0g
川芎 3.0g
茯苓 3.0g
防風 1.5g
甘草 1.0g
荊芥 1.0g
生姜 1.0g
樸樕 3.0g(ぼくそく)
独活 1.5g
構成生薬とは、方剤を構成する生薬のことを指します。
その中で、メインとなる生薬を君薬(「君」は、もともと高位の人を指します)、次に重要な生薬を臣薬(家臣の臣です)、次に佐薬(「佐」は助けるという意味があります)、調整役の生薬を使薬(「使」は、仕えるといった意味があります)と言います。
十味敗毒湯の君薬は、独活、防風、荊芥となります。
独活は、セリ科のシシウド、その他同属植物の地下部です。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%82%B7%E3%82%A6%E3%83%89%E5%B1%9E
効能は、祛風勝湿・止痛で、風寒湿邪の外感による頭痛、関節痛、悪寒、発熱などの症候に、防風、荊芥などとともに用いられます。
防風は、セリ科のボウフウの根、根茎です。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%82%A6%E3%83%95%E3%82%A6
効能は、散風解表で、外感表証に用いられます。
荊芥は、シソ科のケイガイの花穂をつけた茎枝あるいは花穂で、これを荊花穂と言います。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B1%E3%82%A4%E3%82%AC%E3%82%A4
黒く炒ったものを黒荊芥、荊芥炭と言います。
効能は、祛風解表、宣毒透疹、散瘀止血などがあります。
本方においては、祛風解表が主な効能で、外感風邪による悪寒・発熱・頭痛などの表証に用います。
風寒表証には、防風などと使用します。
風熱表証には、薄荷、連翹などと用い、これが風邪でよく用いられる銀翹散(ぎんぎょうさん)です。
ご興味のある方は、診察時にご相談ください。
今後とも、医療法人社団ペリカン六本木ペリカンこころクリニック(心療内科、精神科)をよろしくお願いいたします。