こころのペリカン便り

Column

【心療内科/精神科医の名著紹介】 『看護覚え書』(フロレンス・ナイチンゲール著)に見る「こころ」 #8

今回は、『看護覚え書』(フロレンス・ナイチンゲール著)に見る「こころ」の8回目です。

 

 

よろしくお願いいたします。

 

 

 

(P109~110 変化 より)

 

 

病人が「もう少し自制心を働かさえすれば」、つまり病人がその気になりさえすれば、「病気を悪化させるもろもろの心痛から免れることができる」であろうに、と健康な人は誰しも思うのであるが、それはたいへんな誤りである。まったくのところ、穏やかな物腰と礼儀正しい態度を保っている病人たちは、その《ほとんど》が、1日じゅうその一刻一刻に、あなたが知っているどんなに強い自制心よりもはるかに強い自制心を働かせている。それはあなた自身が病気にならないかぎり理解できないであろう。

 

 

カウンセリングの世界に、「not knowing」という言葉があります。

 

「not knowing」を直訳すると、「知らない、わからない」となります。

 

つまり、「私たちは相手の何も知らない、わからない。知っているはずがない、わかっているはずがない」ということです。

 

これは「安易に相手を知った/わかったつもりになるべきではない」という戒めの意味です。

 

これは全くその通りですが、まだ前半の意味に過ぎません。

 

その先に、「しかし、だからこそ、私たちは相手を知ろうとする、わかろうとする。」、そして、「その姿勢こそが人が人と向き合うときに最も大切であり、そう人に向き合われたときに人は人に心を開く」というメッセージが込められています。

 

家族や恋人、親友など、近しい人の気持ちを、私たちは「わかった」と思いがちです。

 

それは、近しいからこその思いですが、残念ながら異なっていることがほとんです。

 

ましてや、相手が病気を患っていれば、なおさらです。

 

しかし、「それでもわかりたい」と思い続けることが大切である、と私は思っています。

 

(次回に続きます)