こころのペリカン便り

Column

急性ストレス反応について 前編

今回は、急性ストレス反応について解説していきます。

 

ICD-10でのによる記述に解説を加える形で進めていきます。

ICD-10に関する説明は、以下のコラムをご参照ください。

 

 

https://www.pelikan-kokoroclinic.com/%e8%a8%ba%e6%96%ad%e5%9f%ba%e6%ba%96icd%e3%81%a8dsm/

 

 

心因反応という診断名があります。

心因反応という用語自体は昔からあるものの、その示す範囲の解釈に各時代等で差があることから、診断基準上はなくなってしまいましたが、今でも慣用的に広く用いられてます。

その代表的な使用例として、今回の急性ストレス反応とほぼ同義とするものがあります。

 

 

 

 

F43.0 急性ストレス反応

Acute Stress Disorder;ASD

 

 

他に明らかな精神障害を認めない個人において、例外的に強い身体的及び又は精神的ストレスに反応して発現し、通常数時間か数日以内で収まる著しく重篤な一過性の障害である。

[解説]「他に明らかな精神障害を認めない」は重要なポイントです。なぜなら、もし他にうつ病などが認められる場合は、その方を優先して主疾患として定めなければならないからです。著しく強い身体的ストレス(下記にもありますが、例えば事故など)や精神的ストレス(例えば家族の死など)によって生じるものです。定義上は数日以内で収まることになっていますが、実際はそれ以上持続するケースもあり、その場合は各医師によって便宜上そのまま診断名を継続使用するか、別疾患に診断を変更します。

 

 

ストレスの原因は、患者あるいは愛する人(びと)の安全あるいは身体的健康に対する重大な脅威(例えば自然災害、事故、戦闘、暴行、強姦)を含む圧倒的な外傷体験なる場合もあり、肉親との死別が重なること、あるいは自宅の火災のような、患者の社会的立場や人間関係の非常に突然かつ脅威的な変化である場合もある。

[解説]原因としては、典型的には、いわゆるトラウマ(「トラウマ」の精神医学上の使用法は意外と難しく、ここで使用しているのは日常用語的に使用されているニュアンスのものを指しています)になり得るような、第三者から聞いて誰しもが納得するレベルの強い衝動的な出来事、つまり上記のような自然災害(例えば、地震、津波など)、事故(交通事故など)、戦闘、暴力、暴行、強姦などが挙げられます。他にも、肉親の死、社会的状況、人間関係が一変してしまうような出来事でも起きることがあります。

 

 

身体的消耗あるいは器質的要因(例えば老齢)があると、この障害を起こす危険が高まる。

[解説]誰しもそうでしょうか、心身において健康なときなら何とか乗り越えられることもあるかもしれませんが、そうでないときはこの辛さに打ち勝つのは容易ではないでしょう。

 

 

個人の脆弱性と対処能力が急性ストレス反応の発生と重症度に関連しており、非常に強いストレスにさらされた全ての人々がこの障害を起こすわけではないという事実によって、それが立証される。

[解説]いわゆるストレス耐性は人によって異なりますし、関係性は全ての人で異なるので、一律に何か言えることはありません。

 

 

症状は著しい変異を示すが、典型的な例では意識野のある種の狭窄と注意の狭小化、刺激を理解することができないこと、及び失見当識を伴った、「困惑(daze)」と言う初期状態を含んでいる。

[解説]症状は多彩ですが、特に急性期の反応として、「意識がボーとする」「頭が真っ白になる」「何も考えられない」「我を失う」などと表現されるような状態に陥いることがあり、これを専門的には「困惑(daze)」といいます。

 

 

この状態の後に、周囲の状況からの引きこもりの増強(解離性昏迷)にまでいたる。

[解説]これが強まると、更に意識上で周囲から隔離された状態(解離性昏迷)になります。これは一種の本能的な防衛反応とも言えます。ショックが強すぎるがゆえに、自身を壁で覆い隔離することで、ショックから身を守ろうとしているのです。

 

 

パニック不安の自律神経徴候(頻脈、発汗、紅潮)が認められるのが普通である。

[解説]極度の緊張、興奮状態に置かれますので、自律神経のうち交感神経が活発になり、動悸(頻脈)、発汗、紅潮(顔が赤くなる)、過呼吸、呼吸困難感、手足の震え、めまいなどが生じます。起きているメカニズムは、パニック発作と全く同じです。

 

 

症状は通常、ストレスの強い刺激や出来事の衝撃から数分以内に出現し、2,3日以内(しばしば数時間以内)に消失する。

[解説]心身が急速に反応しますので、すぐさま症状として出現し、通常は数日以内に収束するとされています。ただし、上述したように、実際にはその後も持続することがあり、その場合は便宜上(途中で診断名を変更することで患者さんの不安を煽ぐのを防ぐために)そのまま診断名を継続使用することもありますし、他の診断に変更することもあります。

 

 

そのエピソードの部分的あるいは完全な健忘を認めることがある。

[解説]これはうつ病などでも起きる現象ですが、極度のストレス状態の時期の記憶がなくなるのはしばしばみられます。

 

 

 

診断ガイドライン

 

例外的に強いストレス因衝撃と発症との間に、即座で明らかな時間的関連がなければならない。発症は通常、直後ではないにしても、数分以内である。

[解説]非常に強度の高い出来事(第三者からみてもうなづけるほどのもの)があり、その直後から発症するもの、とされています。例えばそれが1,2か月後から気持ちの変化が起きたとなれば、それは少なくともこの診断名には該当しません。

 

 

それに加え症状は、
(a)混合した、しじゅう変動する病像を呈する。初期「困惑」状態に加えて、抑うつ、不安、激怒、絶望、過活動、及び引きこもりの全てが見られることがあるが、一つのタイプの症状が長い間優勢であることはない。
(b)ストレスの多い環境からの撤退が可能な場合、急速に(せいぜい数時間以内で)消失する。ストレスが持続するか、その性質上取り消すことができない場合、症状は通常24から48時間後に軽減し始め、通常約3日後に最小限となる。
[解説](a)急激な心理的反応になりますので、一定の症状が続くわけではなく、多彩な反応が見られ、しかも短時間で変化していくのが特徴です。「絶対にみられない」という症状はなく、ほぼあらゆる症状が起き得ります。
[解説](b)原因となるもの、環境との心的、肉体的(物理的)距離が離せるかは重要で、離せる場合は数時間程度で急速に回復します。しかし、それが困難な場合は、数日を要します。
この診断は、「特定のパーソナリティ障害」を除く他の精神科的障害の診断基準を満たす症状を既に示している個人においては、症状の突然の増悪に当てはめるために用いてはならない。しかしながら、精神科的障害の既往があっても、この診断の使用は許される。

[解説]例えば既にうつ病と診断されている方が、症状が急激に悪化したからといって、無条件的にこの診断名を使用することはできません。ただし、条件を満たす状況にあるならば、併発として使用は可能です。

 

 

<含>急性危機反応

   戦闘疲労

   危機状態

   精神的ショック