以前は、「注意欠陥多動性障害」と言われていました。
しかし、「欠陥」という単語が差別的とされて、最近は「注意欠如・多動性障害」という名称に変更されています。
ADHDは、一言で言うと、以下の3つの主症状を呈する、体質的な脳機能障害です。
ADHDは、これまでICD-10やDSM-Ⅳでは、発達障害とは扱われてきませんでした。
DSM‐5になって、ようやく神経発達症群という、とても簡単に言うと体質的な脳機能障害を指す一群に含まれました。
ICD-11も、この流れを踏襲するだろうと言われています。
【ADHDの3つの特徴】
ADHDの特徴も、自閉症スペクトラム障害と同様に3つあります。
1.不注意
2.多動性
3.衝動性
です。
1.の「不注意」は、集中力、注意力が続かないこと
2.の「多動性」は、落ち着きがないこと
3.の「衝動性」は、衝動的に行動してしまうこと
を意味します。
具体的な言動を挙げてみます。
子どものころと大人になってからの変化もわかるように記載しておきます。
子ども | 大人 | |
不注意 |
・勉強でケアレスミスをする ・集中して何かをするのが苦手、気が散りやすい ・興味のあることには逆に集中しすぎて、切り替えるのが苦手 ・話を聞いていない(ように見える) ・順序をつけて勉強などをするのが苦手 ・同じことを繰り返すのが苦手 ・忘れ物をする ・よく物を失くす |
・仕事でケアレスミスをする ・忘れ物をする ・アポイント、約束の日にちを忘れる ・時間管理が苦手 ・仕事で優先順位をつけて行うのが苦手 ・片づけるのが苦手 |
多動性 |
・授業中に座っていることができず、走り回ってしまう ・レクリエーションに最後まで参加できず、違う行動をとってしまう ・おしゃべりが止まらない |
・落ち着かない、ソワソワしている ・貧乏ゆすりをする |
衝動性 |
・質問が終わらないうちに、答えてしまう ・順番待ちが苦手 ・他の人が何かしているのをさえぎったり、邪魔してしまう |
・思ったことをすぐに口にしてしまう ・「一言多い」と言われる ・衝動買いをしてしまう |
年齢とともに多動性、衝動性は落ち着いていくことが多いですが、不注意は大人になっても残ることがあります。
いくつかの仕事を同時にするのが苦手で、同じミスを繰り返す、用事を忘れる、ということもあります。
上司に常に怒られたり、自分に自信も持てなくなります。
集中力が続かないため、周囲から怠けていると思われることもあります。
【診断基準】
(診断基準そのものの解説は、別コラムをご覧ください。)
なお、基本的には児童が前提となっていますが、DSM-5は成人も意識されています。
まずは、ICD-10をみてみます。
≪ICD-10≫
注意の障害と多動が基本的特徴である。
両者が診断に必要であり、1つもしくはそれ以上の状況で両者を明らかにしなければならない(たとえば家庭、教室、病院など)。
注意の障害は、課題を未完成で中止したり、活動が終わらないうちに離れてしまったりすることで明らかになる。
こういった子どもたちはしばしば1つの活動から次の活動へ移るが、おそらく他のことに気が散り、1つの課題に注意を集中できないためと思われる(しかし臨床検査では通常、異常な程度の知覚や認知の転導性を示さない)。
持続性と注意の欠陥は、その子どもの年齢とIQから考えて過度な場合にのみ診断されるべきである。
多動は、とくにおとなしくしていなくてはならない状況において、過度に落ち着きがないことを意味する。
状況によって、走り回り跳ね回る、あるいは座ったままでいるべきときに席から立ち上がる、あるいは過度にしゃべり騒ぐ、あるいはもじもじそわそわしていることが含まれる。
判定の基準は、状況から予想される程度より活動が過度でかつ、同じ年齢とIQの他の小児と比較して活動が過度であることが必要である。
この行動特徴が最も顕著となるのは、行動の自己統制が高度に必要とされる、構造化され組織化された状況である。
以下の随伴する特徴は診断に必ずしも十分でも必要でもないが、診断の確認に役立つ。
社会的関係での抑制欠如、多少危険な状況でも向こうみずであること、社会的規則に対する衝動的な軽視(他人の活動に干渉したり妨げたり、他人が質問を終わらないうちに答えたり、順番を待つのが困難であったりすること)などである。
学習の障害と運動の不器用さはきわめてしばしばみられ、これらが存在するときは個別に(F80-F89)に記載されるべきであり、これらはこの多動性障害を実際診断する際の基準の一部にしてはならない。
行為障害の症状は主診断の基準でも包含基準でもない。
しかしその症状が存在するかしないかは、この障害の主な下位分類の基準となる(以下を参照せよ)。
特徴的な問題行動は早期に発現(6歳以前)し、長く持続するものである。
しかしながら、入学前には正常範囲の幅が大きいので、多動と認定するのは困難である。
学齢以前の幼児では程度が極度の場合のみ診断がなされる。
多動性障害と診断することは成人期でも可能である。
基本的には小児期と同様であるが、注意と行動に関しては発達に見合った基準を考慮して診断しなければならない。
多動が小児期に存在し、しかし現在はなく非社会的パーソナリティ障害や物質乱用などの他の状態になっている場合には、以前の状態ではなく現在の状態でコード化する。
鑑別診断:
障害が混合していることがふつうであり、そして広汎性発達障害がある場合には、それが優先する。
診断で主に問題となるのは行為障害との鑑別である。
多動性障害はその診断基準が満たされれば、行為障害に優先して診断される。
しかしながら、軽度の過動と不注意は行為障害でも一般にみられる。
多動と行為障害の特徴がいずれも存在し、しかも他動が広汎で重篤な場合には、「多動性行為障害」と診断されるべきである。
さらに問題は、多動性障害に特徴的なものとはいくぶん異なる種類の過動と不注意が、不安あるいはうつ病性障害の症状として起こることがあるという事実である。
したがって激越うつ病性障害の典型的な症状である落ち着きのなさから、多動性障害の診断を導き出してはならない。
同様に、しばしば重篤な不安の症状としての落ち着きのなさから多動性障害の診断を導き出してはならない。
もし不安定性障害の1つの基準が満たされるならば、不安と結びついた落ち着きのなさとは別に多動性障害の随伴が明らかでない限り、それが多動性障害に優先する。
同様に、気分障害の診断基準が満たされるならば、単に注意集中が障害され、精神運動性激越があるという理由で多動性障害を付加して診断してはならない。
二重診断は、気分障害の単なる部分症状ではないことが明確に示される多動性障害が存在する場合にのみなされるべきである。
小児の多動行動が学齢期に急激に発症する場合には、あるタイプの反応性障害(心因性かあるいは器質性)、躁状態、統合失調症あるいは神経学的疾患(たとえば、リウマチ熱)によるものが多い。
≪ICD-10≫ 研究用診断基準
F90 多動性障害 Hyperkinetic Disorders
注:他動性障害の研究用診断では、さまざまな状況を通じて広範に、かついつの時点でも持続するような、異常なレベルの不注意や多動、そして落ち着きのなさが明らかに確認されることが必要である。
またこれは、自閉症や感情障害などといった他の障害に起因するものではない。
G1.不注意:
次の症状のうち少なくとも6項が、6ヶ月間以上持続し、その程度は不適応を起こすほどで、その子どもの発達段階と不釣り合いであること。
学校の勉強・仕事・その他の活動において、細かく注意を払えないことが多く、うっかりミスが多い。
作業や遊戯の活動に注意集中を維持できないことが多い。
自分に言われたことを聴いていないように見えることが多い。
しばしば指示に従えない、あるいは学業・雑用・作業場での仕事を完遂することができない(反抗のつもりとか指示を理解できないためではない)。
課題や作業をとりまとめるのが下手なことが多い。
宿題のように精神的な集中力を必要とする課題を避けたり、ひどく嫌う。
学校の宿題・鉛筆・本・玩具・道具など、勉強や活動に必要な特定のものをなくすことが多い。
外部からの刺激で容易に注意がそれてしまうことが多い。
日常の活動で物忘れをしがちである。
G2.過活動:
次の症状のうち少なくとも3項が、6ヶ月間以上持続し、その程度は不適応を起こすほどで、その子どもの発達段階と不釣り合いであること。
座っていて手足をモゾモゾさせたり、身体をクネクネさせることがしばしばある。
教室内で、または着席しておくべき他の状況で席を離れる。
おとなしくしているべき状況で、ひどく走り回ったりよじ登ったりする(青年期の者や成人ならば、落ち着かない気分がするだけだが)。
遊んでいて時に過度に騒がしかったり、レジャー活動に参加できないことが多い。
過剰な動きすぎのパターンが特徴的で、社会的な状況や要請によっても実質的に変わることはない。
G3.衝動性:
次の症状のうち少なくとも1項が、6ヶ月間以上持続し、その程度は不適応を起こすほどで、その子どもの発達段階と不釣り合いであること。
G5.広汎性:
この基準は複数の場面で満たされること。
たとえば、不注意と過活動の組み合わせが家庭と学校の両方で、あるいは学校とそれ以外の場面(診察室など)で観察される。
(いくつかの場面でみられるという証拠として、通常複数の情報源が必要である。たとえば、教室での行動については、親からの情報だけでは十分とはいえない)
G7.この障害は広汎性発達障害、躁病エピソード、うつ病エピソード、または不安障害の診断基準をみたさないこと。
≪DSM-Ⅳ≫
念のため、前版のDSM-Ⅳのときの診断基準を掲載しておきます。
年齢、時代によってはこの第4版のもので、診断されていることがあるからです。
A.(1)か(2)のどちらか:
(1)以下の不注意の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6ヶ月以上続いたことがあり、その程度は不適応的で、発達の水準に相応しないもの:
不注意:
(a)学業、仕事、またはその他の活動において、しばしば綿密に注意することができない、または不注意な過ちをおかす。
(b)課題または遊びの活動で注意を持続することがしばしば困難である。
(c)直接話しかけられたときにしばしば聞いていないように見える。
(d)しばしば指示に従えず、学業、用事、または職場での義務をやり遂げることができない(反抗的な行動、または指示を理解できないためではなく)。
(e)課題や活動を順序立てることがしばしば困難である。
(f)(学業や宿題のような)精神的努力の持続を要する課題に従事する事をしばしば避ける、嫌う、またはいやいや行う。
(g)(例えばおもちゃ、学校の宿題、鉛筆、本、道具など) 課題や活動に必要なものをしばしばなくす。
(h)しばしば外からの刺激によって容易に注意をそらされる。
(i)しばしば毎日の活動を忘れてしまう。
(2)以下の多動性―衝動性の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6ヶ月以上持続したことがあり、その程度は不適応的で、発達水準に相応しない:
多動性:
(a) しばしば手足をそわそわと動かし、またはいすの上でもじもじする。
(b) しばしば教室や、その他、座っていることを要求される状況で席を離れる。
(c)しばしば、不適切な状況で、余計に走り回ったり高い所へ上ったりする(青年または成人では落ち着かない感じの自覚のみに限られるかも知れない)。
(d)しばしば静かに遊んだり余暇活動につくことができない。
(e)しばしば“じっとしていない”または、まるで“エンジンで動かされるように”行動する。
(f)しばしばしゃべりすぎる。
衝動性:
(g)しばしば質問が終わる前に出し抜けに答え始めてしまう。
(h)しばしば順番を待つことが困難である。
(i) しばしば他人を妨害し、邪魔する(例えば会話やゲームに干渉する)
B.多動性―衝動性または不注意の症状のいくつかが7歳以前に存在し、障害を引き起こしている。
C.これらの症状による障害が2つ以上の状況において(例えば学校[または仕事]と家庭)存在する。
D.社会的、学業的または職業的機能において、臨床的に著しい障害が存在するという明確な証拠が存在しなければならない。
E.その症状は広汎性発達障害、精神分裂病、または、その他の精神病性障害の経過中にのみ起こるもではなく、他の精神疾患(例えば気分障害、不安障害、解離性障害、または人格障害)ではうまく説明されない。
≪DSM-5≫
次にDSM-5をみてみます。
長くて難しいですが、簡単に言うと、
①診断基準Aを満たし、②12歳以前から症状があり、③症状は2か所以上でみられ、④社会生活に支障をきたしており、⑤他の精神疾患でなければ、ADHDと診断できるとなっています。
A. (1)および/または(2)によって特徴づけられる、不注意および/または多動性-衝動性の持続的な様式で、機能または発達の妨げとなっているもの
(1)不注意:以下の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6カ月持続したことがあり、その程度は発達の水準に不相応で、社会的および学業的/職業的活動に直接、悪影響を及ぼすほどである。
注:それらの症状は、単なる反抗的行動、挑戦、敵意の表れではなく、課題や指示を理解できないことでもない。青年期後期および成人(17歳以上)では、少なくとも5つ以上の症状が必要である。
学業、仕事、または他の活動中に、しばしば綿密に注意することができない、または不注意な間違いをする(例:細部を見過ごしたり、見逃してしまう、作業が不正確である)。
課題または遊びの活動中に、しばしば注意を持続することが困難である(例:講義、会話、または長時間の読書に集中し続けることが難しい)。
直接話しかけられたときに、しばしば聞いていないように見える(例:明らかな注意を逸らすものがない状況でさえ、心がどこか他所にあるように見える)。
しばしば指示に従えず、学業、用事、職場での義務をやり遂げることができない(例:課題を始めるがすぐに集中できなくなる、また容易に脱線する)。
課題や活動を順序立てることがしばしば困難である(例:一連の課題を遂行することが難しい、資料や持ち物を整理しておくことが難しい、作業が乱雑でまとまりがない、時間の管理が苦手、締め切りを守れない)。
精神的努力の持続を要する課題(例:学業や宿題、青年期後期および成人では報告書の作成、書類に漏れなく記入すること、長い文書を見直すこと)に従事することをしばしば避ける、嫌う、またはいやいや行う。
課題や活動に必要なもの(例:学校教材、鉛筆、本、道具、財布、鍵、書類、眼鏡、携帯電話)をしばしばなくしてしまう。
しばしば外的な刺激(青年期後期および成人では無関係な考えも含まれる)によってすぐ気が散ってしまう。
しばしば日々の活動(例:用事を足すこと、お使いをすること、青年期後期および成人では、電話を折り返しかけること、お金の支払い、会合の約束を守ること)で忘れっぽい。
(2)多動性および衝動性:以下の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6カ月持続したことがあり、その程度は発達の水準に不相応で、社会的および学業的/職業的活動に直接、悪影響を及ぼすほどである。
注:それらの症状は、単なる反抗的行動、挑戦、敵意などの表れではなく、課題や指示を理解できないことでもない。
青年期後期および成人(17歳以上)では、少なくとも5つ以上の症状が必要である。
しばしば手足をそわそわと動かしたりトントン叩いたりする。またはいすの上でもじもじする。
席についていることが求められる場面でしばしば席を離れる(例:教室、職場、その他の作業場所で、またはそこにとどまることを要求される他の場面で、自分の場所を離れる)。
不適切な状況でしばしば走り回ったり高い所へ登ったりする(注:青年または成人では、落ち着かない感じのみに限られるかもしれない)。
静かに遊んだり余暇活動につくことがしばしばできない。
しばしば“じっとしていない”、またはまるで“エンジンで動かされるように”行動する(例:レストランや会議に長時間とどまることができないかまたは不快に感じる;他の人達には、落ち着かないとか、一緒にいることが困難と感じられるかもしれない)。
しばしばしゃべりすぎる。
しばしば質問が終わる前にだし抜いて答え始めてしまう(例:他の人達の言葉の続きを言ってしまう;会話で自分の番を待つことができない)。
しばしば自分の順番を待つことが困難である(例:列に並んでいるとき)。
しばしば他人を妨害し、邪魔する(例:会話、ゲーム、または活動に干渉する;相手に聞かずにまたは許可を得ずに他人の物を使い始めるかもしれない;青年または成人では、他人のしていることに口出ししたり、横取りすることがあるかもしれない)。
B. 不注意または多動性―衝動性の症状のうちいくつかが12歳になる前から存在していた。
C. 不注意または多動性―衝動性の症状のうちいくつかが2つ以上の状況(例:家庭、学校、職場;友人や親戚といるとき;その他の活動中)において存在する。
D. これらの症状が、社会的、学業的または職業的機能を損なわせているまたはその質を低下させているという明確な証拠がある。
E. その症状は、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中に起こるものではなく、他の精神疾患(例:気分障害、不安症、解離症、パーソナリティ障害、物質中毒または離脱)ではうまく説明されない。
【大人のADHDの特徴】
有病率は、子どもでは約5%に対し、大人は2.5%前後と推測されています。
年齢を重ねることで、症状自体は軽減されます。
また、患者さん自身が成長の中で工夫をしていくことで症状が目立ちにくくなるのも特徴です。
大人の方が受診する動機として、診断を希望してという場合が多いと思いますが、現代はインターネットで多くの情報を入手できるため、知れば知るほど自身の言動がADHD様になってしまうこともあります。
大人の方は併存症(合併症)を有している場合が多いです。
頻度が多いものは、気分障害、不安障害、物質乱用などです。
もちろんこれらの治療も大切ですし、背景にADHDがあるなら、その治療も行っていくことが必要です。
また学生までは、多少の症状があっても学生という立場上許容されることがあるため、結果として目立たなかったものの、社会人となって求められるハードルが高くなり、症状が自身や周囲に発見されて、病院を受診することとなるケースも多くみられます。
女性の場合は、社会に出るほかにも、結婚や出産で自身に対して以外にすべきことが生じることで発見されることもあります。